飛行機の中や病院内の空気が気になる潔癖症の人を少し安心させる研究結果が報告された。米ノースウェスタン大学土木・環境工学准教授のErica Hartmann氏らによる研究で、機内や病院内の空気に含まれている微生物は、主に人の皮膚に常在する無害な細菌で構成されていることが明らかになった。この研究結果は、「Microbiome」に12月4日掲載された。 この研究では、使用済みマスクの外側表面と航空機のエアフィルターから微生物を回収し、そこに含まれるDNAを抽出してショットガンメタゲノム解析を行った。解析には、8,039時間使用された後に回収された航空機のエアフィルター1つと、飛行機利用者10人と、勤務後の医療従事者12人から入手した使用済みマスクが用いられた。 Hartmann氏らがこの研究のアイディアを思い付いたのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下の2022年1月だったという。同氏は、「当時、飛行機内での新型コロナウイルス感染リスクが深刻に懸念されていた。機内のHEPAフィルターは非常に高い効率で空気をろ過するので、空気中のあらゆるものを捕捉する優れた方法であると考えた」と話す。同氏はさらに、「ただし、これらのフィルターは、車や家庭に備え付けられているフィルターとは違う。何千ドルもする上、取り外すには航空機整備のために運休させなければならず、これには当然、莫大な費用がかかる。これは大きな驚きだった」と振り返る。 そこで、研究グループがはるかに安価な代替手段として目をつけたのがマスクであった。さらに、機内だけでなく病院も加えることにした。Hartmann氏は、「われわれは、マスクを、個人がどんな空気にさらされているのか、あるいは周囲の空気がどのような状態なのかを調べるための安価で簡便な空気サンプリング装置として使えることに気が付いた」とニュースリリースの中で述べている。 解析の結果、407種類の微生物種が確認された。飛行機のフィルターでも医療従事者や旅行者のマスクでも共通して高頻度で認められたのは、Cutibacterium acnes、Staphylococcus epidermidis、Staphylococcus hominisなどの皮膚常在菌であった。Hartmann氏は、「ある程度、予想されたことではあったが、検出された細菌の多くは屋内空間の空気に典型的に存在するタイプのものだった。つまり、屋内の空気は『屋内の空気らしい微生物構成』をしており、人の皮膚の常在細菌とよく似ていた」と話している。一方、Sphingomonas hankookensisやMethylobacterium radiotoleransなどの環境由来の細菌も、特にエアフィルターから高い頻度で検出された。さらに、大腸菌や緑膿菌、サルモネラ菌など、病原性を持つ可能性のある細菌もわずかに検出されたが、いずれも極めて低レベルであり、活性や感染の兆候は認められなかった。 このように、屋内の空気は比較的安全であることが示された一方で、感染性の微生物は他の経路、特に接触により広がることを研究グループは指摘している。Hartmann氏は、「今回の研究でわれわれは、空気中に何が含まれているのかだけを調べた。環境表面からの病原体の伝播を防ぐ上では、手指の衛生が依然として有効だ。われわれが関心を持ったのは、たとえ手を洗っていたとしても、人々が空気を通じて何に曝露されているのかという点だった」と話している。(HealthDay News 2025年12月5日) https://www.healthday.com/health-news/infectious-disease/germophobes-can-breathe-easy-on-airplanes-in-hospitals-experts-say Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Surachetsh/Adobe Stock