歯科治療は近い将来、より楽で痛みの少ないものになるかもしれない。歯を守る硬い表層であるエナメル質を修復・再生できる革新的なジェルの開発に関する研究結果が報告された。エナメル質は、いったん失われると自然には再生しないため、この新素材は、歯の長期的な保護や損傷時の修復方法を大きく変える可能性を秘めている。米国では、歯のエナメル質を強化するミネラルであるフッ化物(フッ素)の経口摂取が議論を呼んでいることから、この研究成果は注目を集めている。英ノッティンガム大学のAbshar Hasan氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Communications」に11月4日掲載された。 エナメル質の喪失は、虫歯(う歯)の主要な原因である。歯に付着したプラークや、酸性の食品、糖分・でんぷん質を多く含む食品や飲料が歯に長時間残存したり、長年の咀嚼により歯が摩耗したりすることで、エナメル質は失われる。 Hasan氏らは、人工タンパク質であるエラスチン様リコンビナマー(Elastin-Like Recombinamer;ELR)を基盤とした、調整可能で耐久性の高い超分子マトリックス(ジェル)を開発した。ELRは、歯の発生過程でエナメル質形成初期に不可欠な成分であるアメロジェニンの構造と機能を模倣した人工タンパク質で、カルシウムイオンの存在下で線維状マトリックスを形成し、エナメル質のナノ結晶の成長を促す。また、乾燥によりELR分子の秩序化と線維化が進み、さらにカルシウムイオンとの相互作用によってマトリックスが安定化する。 研究グループは、抜去したヒトの大臼歯32本にこのジェルを塗布して、その効果を検証した。その結果、塗布されたジェルは、歯の構造内の穴や隙間を埋め、周囲のカルシウムイオンやリン酸イオンを引き寄せる強固なマトリックスを形成し、元のエナメル質の結晶構造に沿って結晶を成長させる「エピタキシャル成長」を誘導することが示された。これにより、失われたエナメル質の構造と力学特性が再生されることが確認された。また、再生されたエナメル質は、歯磨きや咀嚼、酸を産生する食品への曝露において、天然の健康なエナメル質と同等の性能を示すことも確認された。 論文の筆頭著者であるHasan氏は、「このジェルを脱灰またはエロージョン(酸蝕症)の生じたエナメル質、あるいは露出した象牙質に塗布すると、結晶が統合され秩序立った形で成長し、健康な天然エナメル質の構造が回復される」とノッティンガム大学のニュースリリースの中で述べている。 研究グループによると、このジェルは、最大で約10μmの薄いエナメル質の欠損層を修復できる。また、虫歯の修復にとどまらず、エナメル質の下にある敏感な層である象牙質にこのジェルを直接塗布してエナメル様の層を形成することも可能であるという。これにより、知覚過敏の軽減や、歯科修復物の耐久性向上が期待されると研究グループは述べている。 論文の上席著者であるノッティンガム大学生体医工学・バイオマテリアル学教授のAlvaro Mata氏は、「臨床医と患者の双方を念頭に設計されたこの技術に、われわれは非常に興奮している。この技術は、安全で簡便かつ迅速に適用でき、スケールアップも可能だ」と述べている。研究グループは、スタートアップ企業Mintech-Bioを立ち上げ、最短で来年にも最初の製品を市場に投入したい考えであることを明らかにしている。(HealthDay News 2025年12月18日) https://www.healthday.com/health-news/dental-care/new-bio-inspired-gel-helps-tooth-enamel-grow-back Copyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock