動脈の詰まりによって起こる心疾患に苦しむ人に対する開胸手術は、近い将来、過去のものになるかもしれない。心疾患の長い既往歴を持つ67歳の男性に対して、胸壁を切開せずに行う世界初の低侵襲冠動脈バイパス術のVECTOR法(Ventriculo-coronary transcatheter outward navigation and reentry)が実施され、成功裡に終えたことが明らかにされた。手術から6カ月が経過しても、男性には動脈の詰まりに起因する心臓の問題は一切認められなかったという。米エモリー大学医学部のAdam Greenbaum氏らによるこの症例報告は、「Circulation: Cardiovascular Interventions」に1月6日掲載された。 Greenbaum氏は、「この患者は多くの治療歴があり、血管疾患やその他の複雑な要因を抱えていたため、開胸手術は選択肢になかった。このような症例において低侵襲な代替手段があることは、極めて重要だ」とニュースリリースで述べている。 冠動脈バイパス術とは、血流が著しく阻害された動脈を迂回し、心臓に血液と酸素を届ける新たな通路を作る手術である。これまで、最も低侵襲とされる冠動脈バイパス術でさえ、肋骨の間から胸部を切開し、筋肉を押し分け、骨を切除して手術部位に到達する必要がある。 これに対し、VECTOR法は、脚の血管(大腿動脈)からガイドカテーテルを挿入し、大動脈を経由して左冠動脈主幹部まで到達させる。また、大腿静脈からもガイドカテーテルを挿入して右心室に到達させ、スネア(ワイヤーなどを引っ掛けて回収する輪状のワイヤー)を配置する。その後、大腿動脈側のガイドカテーテルを介してガイドワイヤーを挿入し、左冠動脈主幹部から心筋中隔へ導き、中隔枝を介して右心室にワイヤーを貫通させる。次いで、右心室内に配置したスネアを操作してガイドワイヤーの先端を捕捉し、そのままワイヤーを大腿静脈側から体外へ引き出す。こうして大動脈から静脈までの連続したガイドワイヤーレールが形成され、これを足場として、治療用ガイドワイヤーやデバイスを、逆行性に左冠動脈主幹部内へ送達することが可能になる。 VECTOR法は、人に使用される以前は動物を用いた一連の前臨床試験で実証されていた。今回、VECTOR法が実施された男性は、カルシウムの蓄積により人工心臓弁の交換が必要な状態だった。しかし、左冠動脈の開口部が弁に非常に近接していたため、通常の経カテーテル大動脈弁置換術を行うと血流が遮断される可能性が高かった。Greenbaum氏は、「そこでわれわれは、冠動脈の開口部を危険域の外に移動させてしまえばよいのではないかと考えた」と振り返る。 研究グループは、VECTOR法が広く臨床で使われるようになるには、今後さらに多くのヒトを対象とした試験が必要だと述べている。報告書の筆頭著者である米エモリー大学心臓病学分野のChristopher Bruce氏は、「この成果を得るには、従来の枠にとらわれない発想が必要だったが、われわれは、非常に実用的な解決策を開発したと考えている」と話している。同氏は、「構想から動物実験、そして臨床応用へと、このプロジェクトが比較的短期間で実現したのを見るのは、極めて感慨深いことだった」と付け加えている。 なお、VECTOR法に関する研究は、米国国立心肺血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute)の支援を受けて実施された。(HealthDay News 2026年1月8日) https://www.healthday.com/health-news/cardiovascular-diseases/worlds-first-minimally-invasive-heart-bypass-could-make-open-heart-surgery-a-thing-of-the-past Copyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock