脊髄を損傷すると、手足の動きを制御する能力(運動制御能力)と、手足からの感覚情報を脳へフィードバックする能力(感覚フィードバック)の2つの重要な能力が失われる。運動制御能力と感覚フィードバックの双方向の情報伝達機能は、脚や腕を協調させて動かす上で不可欠である。新たな研究で、脊髄損傷部位の上下両方に電気刺激を与えることで、運動制御能力を高めるとともに感覚フィードバックの代替となる感覚を再現できる可能性が示された。米ブラウン大学工学分野のDavid Borton氏らによるこの研究結果は、「Nature Biomedical Engineering」に3月11日掲載された。 この研究でBorton氏らは、完全脊髄損傷により歩行能力を失った3人の患者の損傷部位の上下に電極を埋め込んだ。次いで同氏らは、患者とともに、歩行時の筋肉運動を担う神経への刺激を細かく調整した。その方法は、患者自身がノブとスライダーを備えた「DJボード」を操作し、脊髄の異なる部位に異なるレベルの刺激を与えながら、脚の筋肉を収縮・屈曲させる最適なパターンを探り当てるというものだった。論文の筆頭著者である米カリフォルニア大学デービス校神経外科学分野のJonathan Calvert氏は、「目標となる脚の位置や配置を提示し、それを実現する刺激パターンが見つかるまでボードを操作してもらった。参加者は、再び自分の脚が動く様子を目にし、ボードを通じて動きを自分で制御できることをとても喜んでいた」と語った。 そのようにして得られたデータを基に、機械学習モデルにより、それぞれの参加者で最も精度高く筋活動を引き起こす刺激パターンを最適化した。損傷部位より上への刺激についても同様のプロセスを用いて感覚フィードバックの生成を試みた。ただし、脊髄損傷のため、上への刺激を直接下肢の感覚と対応させることはできない。そこで、身体の別の部位に生じる感覚が下肢の感覚の代替として機能するかを検証した。Calvert氏は、「特定の感覚を特定の動作や刺激と関連付け、参加者が感覚的な手がかりを再解釈できるようにする『感覚代替』のアプローチを用いた。このアプローチでは、参加者は胸や腕、背中に感覚を感じるかもしれないが、それを脚の異なる関節角度と結び付けることを学習できる」と説明している。実際に参加者は、目隠しをした状態でも脚の角度を正確に報告できたという。 その後、天井から吊るされたハーネスで支えられた患者がトレッドミル上で歩行動作を行う際に2種類の電気刺激を同時に使用する実験を行った。その結果、参加者は歩行に必要な筋肉を使い、足が接地したタイミングを正確に報告できた。ただし、その感覚は、足ではない身体の別の部位に生じていた。ある参加者は、自分の胸を指しながら「足が地面についた瞬間が、ここへの感覚で分かった。足がトレッドミルに触れた感覚そのものではなかったが、それに近いものではあった」と語ったという。 Borton氏は、「この結果は、脊髄損傷患者の運動機能回復への道筋を示すものだ。完全脊髄損傷患者において、運動刺激と感覚フィードバックが同時に実証されたのは今回が初めてである」とプレスリリースで述べている。同氏はさらに、「これは、脊髄損傷によって生じた神経伝達の断絶を埋めるという目標に向けた重要な一歩である。われわれは、運動の活性化と感覚フィードバックを同時に提供することで、協調した動きと機能的な自立の回復に向けて前進している」と付け加えた。 研究グループは、この研究で示されたようなフィードバックは、将来的に脊髄損傷のリハビリを行う患者の助けになり得ると述べている。Borton氏は、「損傷部位をまたぐ協調した刺激がリハビリ効果をもたらす可能性がある。今回の研究では十分に検証できなかったが、今後の研究で追求していく予定である」と話している。研究グループは今後、より多くの脊髄損傷患者を対象に入院環境外でこの刺激アプローチを検証する長期研究の実施を計画している。(HealthDay News 2026年3月12日) https://www.healthday.com/health-news/neurology/electrodes-partially-restore-movement-sensation-in-spinal-cord-patients Copyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: PIC4U/Adobe Stock