がんやがん治療に伴い生じる認知機能障害を総称して、CRCI(cancer-related cognitive impairment)という。抗がん剤による治療中や治療後の患者に生じる記憶力や集中力、作業能力の一時的な低下を表す「ケモブレイン」は、CRCIの一種である。このほど、新たな研究において、運動ががん患者のCRCIを防ぎ、認知機能を保ちながら日常生活を円滑に送るのに役立つ可能性が示された。英ロチェスター大学医療センター、ウィルモットがん研究所のがん予防・制御研究プログラムで共同リーダーを務めるKaren Mustian氏らによるこの研究結果は、「Journal of the National Comprehensive Cancer Network」3月号に掲載された。今回の研究では、米国内で2、3、4週サイクルで初回の化学療法を受ける予定だった687人の遠隔転移のないがん患者を対象に、CRCIおよび精神的疲労に対する運動の効果がランダム化比較試験で検討された。参加者は、6週間の自宅ベースの個別化された運動療法を受ける群(354人)と標準治療を受ける群(333人)にランダムに割り付けられた。参加者の認知機能をFunctional Assessment of Cancer Therapy-Cognitive Function(FACT-Cog)、精神的疲労を多次元疲労症状調査票(Multidimensional Fatigue Symptom Inventory;MFSI)で評価するとともに、血液サンプルからIL-1βやIL-6など6種類の炎症関連マーカーを測定した。547人が介入の前後で完全なFACT-Cogデータを提供し、うち348人は血液サンプルも提供した。介入前後で、全ての参加者で認知機能の低下と精神的疲労の増加が見られた。解析の結果、2週サイクルで化学療法を受けている運動療法群では、標準治療群と比較して、全般的な認知機能低下の程度が有意に低く、また、自覚的な認知機能障害や他者が認識する認知機能障害の程度も低かった。一方、3週または4週サイクルで化学療法を受けている運動療法群では、標準治療群との間に有意差は認められなかった。精神的疲労についても介入の前後で、全ての参加者において有意に悪化した。しかし、運動療法群は標準治療群と比較して、介入後の精神的疲労が有意に軽度であった。特に2週サイクルの化学療法を受けている患者では、運動療法群では精神的疲労の悪化が認められなかったのに対し、標準治療群では有意な悪化が認められた。3週および4週サイクルで化学療法を受けている患者では、両群間に有意差は認められなかった。さらに、1日当たりの歩数についても、運動療法群では介入前後でほぼ維持されていたのに対し、標準治療群では介入前と比べて歩数が有意に53%減少した。Mustian氏は、「安全でシンプルな運動プログラムが、化学療法を受ける患者にとって重要な支持療法の一部となり得ることを示している」とニュースリリースで述べている。また研究グループは、運動療法の効果を得るには、2週サイクルの化学療法が「最適なタイミング(スイートスポット)」である可能性も指摘している。本研究をレビューした、米ワシントン大学医学部の腫瘍内科医であるLindsay Peterson氏は、多くの患者がケモブレインを心配していると述べた上で、「今回の研究結果は有望だ。化学療法中の認知機能低下のリスクを減らすために患者自身ができることが運動である可能性を示している」とコメントしている。同氏はさらに、「多くの患者にとって、思考の明瞭さを保ち、記憶力を維持し、治療中も精神的に活動的でいることは、自立した生活の維持や就労の継続、家族のケア、さらに全体的な生活の質(QOL)を保つ上で極めて重要だ」と付け加えている。(HealthDay News 2026年3月13日)https://www.healthday.com/health-news/cancer/theres-one-simple-way-cancer-patients-can-ward-off-chemo-brain-study-findsCopyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Seventyfour/Adobe Stock