予防接種の順番を待っているとき、接種を終わらせた人が、注射の痛さを口にしながらよろよろと出てきたとする。そのような言葉を聞くと、自分が受ける注射の痛みも強く感じるのだろうか。新たな研究で、その答えは「イエス」である可能性が示された。他者の感じ方は、身体的な痛みであれ認知的負荷の高い課題であれ、自分自身の感覚の形成に影響を与え得ることが明らかになった。米ダートマス大学心理・脳科学科のAryan Yazdanpanah氏らによるこの研究の詳細は、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に2月9日掲載された。Yazdanpanah氏は、「今回の研究では、人間は社会的な情報によって予期が形成されると、その予期を維持する傾向があり、その結果、自分の感じ方に持続的な影響を及ぼす可能性が示唆された」とニュースリリースで説明している。この研究でYazdanpanah氏らは、111人の参加者を対象に実験を行い、社会的手がかりが予期や実際の感じ方にどう影響するかを検討した。実験ではまず、他の参加者10人の評価とされる視覚的な手がかりを参加者に提示した。この情報は、実はランダムに表示されたものであり、実際の評価を反映していなかった。この手がかりを見た上で参加者は、以下の3種類の課題を実施した。それらは、1)身体的痛みとして腕に熱刺激を加える課題、2)代理的痛みとして他人が痛がる動画を視聴する課題、3)認知的負荷として、頭の中で2つの3D物体を回転させて同一のものかどうかを判断する課題であった。参加者は、課題実施の前後でその課題がどれだけ痛いか、または困難かを評価した。その結果、他者の評価が熱刺激によって極度の痛みを感じたことを示した場合、たとえ実際の熱刺激が弱くても、参加者は痛みを強く感じる傾向が示された。他者の痛みの程度を判断する場合も同様で、予期が「強い痛み」であれば、参加者もそのように判断した。Yazdanpanah氏は、「これらの結果は、人々が他者の経験をどのように解釈するかについて理解する上で重要な意味を持つ。例えば、ある人が実際には強い痛みを感じているにもかかわらず、周囲がそれを深刻ではないと考えている場合、そのような社会的な認識によって、その人の苦しみを過小評価したり見過ごしたりしてしまう可能性がある」と指摘している。同氏はまた、「同様に、数学の問題を解くといった課題について、他者がその大変さについて話していると、同じ課題がより精神的負荷の大きなものとして感じられる可能性がある」とも述べている。 研究グループによると、これには「確証バイアス」が関与している可能性があるという。共著者であるダートマス大学心理・脳科学科のAlireza Soltani氏は、「人は自分の考えに一致する証拠を優先し、一致しない情報は無視したり軽視したりする傾向がある」と言う。さらに、知覚が予期の影響を受けると、このようなバイアスは修正が難しくなるという。Yazdanpanah氏は、「例えば、腰痛の経験がある人は、体を曲げると痛みが生じることを予期するかもしれない。たとえ身体が生理学的には回復して体を曲げることが安全であっても、そのような予期が実際に感じる痛みを強め得る。その結果、本来は安全な動作であっても痛みを感じ、こうした考えを更新するために必要なシグナルが弱まってしまうのだ」と説明している。この研究結果は、ソーシャルネットワークやソーシャルメディアによって絶えることなく人々の認識が形成されている現代社会において重要な意味を持つ可能性があると研究グループは指摘している。上席著者であるダートマス大学心理・脳科学科のTor Wager氏は、「われわれの研究結果は、裏付けとなる証拠がなくても予期が持続する理由を解明する一助になるかもしれない」と述べている。さらに同氏は、「今回の研究で観察されたダイナミクスは自己成就的予言、すなわち慢性疼痛や疲労といったさまざまな健康状態、さらには他者に対する考え方にも影響を及ぼすフィードバックの循環を生み出す可能性がある」と説明している。(HealthDay News 2026年3月16日)https://www.healthday.com/health-news/pain-management/other-peoples-opinions-can-shape-how-you-feel-about-pain-mental-challengesCopyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock