9〜10歳の小児約1万2,000人を対象にした新たな研究で、小児の脳の構造や働きに最も強く関係するのは世帯収入や居住地域の社会経済的環境などの社会経済的要因であることが示された。米ワシントン大学医学部Mallinckrodt Institute of RadiologyのNico Dosenbach氏らによるこの研究結果は、「Science」に6月11日掲載された。脳全体の関連研究(BWAS)は、脳MRI画像を用いて、知能指数(IQ)や精神症状などの個人特性、あるいは社会経済的地位などの生活環境の個人差と、脳の機能や構造との関連を網羅的に評価する研究である。過去のBWASでは、主にIQや精神病理と脳との関連が評価され、環境や経験が脳の発達に及ぼす潜在的な影響は十分に考慮されていなかった。しかし近年の研究では、小児期の貧困や慢性ストレス、その他の逆境体験が、脳の発達や心身の健康に影響を及ぼすことが示されている。そこでDosenbach氏らは、BWASを拡大することを目的に、脳MRI画像と12のカテゴリーに分類される649種類の要因との関連を評価した。12のカテゴリーは、社会経済的要因、スクリーンタイム、認知能力、文化・環境要因、社会人口統計学的特徴、身体的健康、精神的健康、社会的適応、物質使用・曝露、養育環境、パーソナリティ特性、医療歴であった。その上で、これらの要因が脳機能や脳構造にどのように反映されるのか、また、これまで報告されてきたIQスコアと脳との関連が真の関連なのか、それとも他の要因の影響を受けているのか、という2つの問いを検証した。評価には、9~10歳の小児1万1,878人のMRI画像が用いられた。解析の結果、脳機能との関連が認められた上位40個の要因のうち37個、および脳構造との関連が認められた上位40個の要因のうち35個は社会経済的要因であった。それらの中で特に関連が強かったのは、世帯収入、持ち家の有無、地域の貧困率、交通機関へのアクセスであった。また社会経済的要因以外の要因では、睡眠、スクリーンタイム、ストレスの影響が強かった。研究グループによると、特に影響を受けていたのは運動・感覚系の脳領域だった。これらの領域は、睡眠やストレスの日々の変動の影響を強く受ける。一方、認知機能や問題解決に関わる脳領域との関連は弱かった。このことから、社会経済的要因は思考に関わる脳領域を直接変化させるというよりも、身体感覚や運動に関わるシステムを介して子どもの脳に影響を及ぼしている可能性が考えられる。これらのことを踏まえて研究グループは、認知能力における脳の違いのように見えるものは、実際には知的能力の違いというよりも、疲労や慢性ストレスといった日常的な負担の違いを反映している可能性が高いとの見方を示している。一方、過去の研究で示唆されていた脳とIQスコアとの関連については、社会経済的要因の影響を調整して解析すると、関連の約70%が統計学的に有意ではなくなった。さらに、社会経済的地位の高い家庭の小児のMRI画像を用いて解析すると、IQと脳の構造または機能との間に有意な関連は認められなかった。論文の筆頭著者であるMallinckrodt Institute of RadiologyのScott Marek氏は、「小児の脳画像から、家庭の社会経済的地位や睡眠時間、スクリーンタイムは分かっても、IQについては、少なくとも社会経済的要因を調整すると推測することはできない」とし、IQは脳の生物学的特徴に直接根ざしたものではなく、環境要因の影響を強く受ける可能性があるとの見解を示している。その上で、「睡眠やストレスは改善可能な要因であり、それらを改善することで小児の脳の健康を向上できる可能性がある」と述べている。(HealthDay News 2026年6月16日) https://www.healthday.com/health-news/child-health/family-finances-shape-childrens-brain-development-study-finds Copyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock