多発性硬化症(MS)では脳の皮質に生じる病変(皮質病変)が身体機能障害や認知機能低下と深く関連しているが、従来のMRI検査では皮質病変の可視化に限界があった。しかし、新しく開発されたAI(人工知能)を活用したMRI画像解析手法により複数のMRI画像の情報を組み合わせて解析することで、従来のMRI検査では見えなかった病変を検出できる可能性が示された。論文の筆頭著者である米バッファロー大学神経学および生物医学情報学分野のMichael Dwyer氏は、「従来のMRI画像を見ても、通常は皮質病変を確認することはできない。しかし、AIは画像間のごくわずかな違いを検出できるため、非常に強力なツールとなる。AIはこうした小さな差異を捉えることで、その部位に異常が生じており、組織の機能が健常な組織とは異なることを明らかにする」とニュースリリースで述べている。この研究の詳細は、7月7日付で「Communications Medicine」に掲載された。今回の研究でDwyer氏らは、MRI画像処理技術として、FLAIR画像とT2強調画像を組み合わせたFLAIR2画像、T1強調画像とT2強調画像の信号比を用いたT1/T2比画像、AIを用いて一般的なMRI画像からDIR(Double Inversion Recovery)画像を生成するAI-DIR画像を評価した。その上で、これらの手法を組み合わせた病変強調画像「MMCLE(Multi-Modal Cortical Lesion Enhanced)」を開発した。さらに、トランスフォーマーを基盤とするAIを用いて皮質病変を自動検出し、専門家がその結果を確認・修正した。これらの手法を用いた皮質病変検出の有用性は、732人の患者(平均年齢44.6歳)を対象としたMS治療薬に関する第3相ORATORIO試験で取得されたMRI画像を用いて評価した。その結果、開発用データセット(80人、平均年齢46.6歳、平均罹病期間7.0年)では、この解析法により、これまで検出できなかった皮質病変が患者1人当たり平均14.8個特定された。専門家によるブラインド評価では、MMCLE画像単独での病変検出性能が最も高く、真陽性率86.0%、偽陽性率8.4%であった。データセット全体(732人)では、専門家による評価の結果、計1万366個、1人当たり平均14.4個の病変が検出された。論文の上席著者であるバッファロー大学ジェイコブス医学・生物医学部のRobert Zivadinov氏は、「従来型のMRIでは可視化できなかった皮質病変を検出できることは、MS研究と臨床診療の双方に大きな意義を持つ。これまで隠れていた認知機能障害や身体機能障害と関連する病変も含めたMS進行の指標を初めて可視化できるようになったことは重要な前進だ」と述べている。この技術を活用すれば、例えば、皮質病変の形成をどの程度抑制できるかを指標として、既存および新規のMS治療薬の有効性を評価できるようになる。これまでは、従来のMRIで確認可能な白質病変に対するMS治療薬の効果しか評価できなかった。Zivadinov氏は、「脳内にこれほど多くの見えない病変が存在することを明らかにした本研究は、過去の臨床試験データの再評価だけでなく、今後実施される臨床試験にも大きな影響を与えるだろう」とコメントしている。なお、本研究は、製薬企業Genentech社から一部支援を受けて実施された。同社は、このシステムの検証に用いられたMRIデータを収集した臨床試験にも資金を提供している。(HealthDay News 2026年7月10日) https://www.healthday.com/health-news/neurology/ai-can-detect-previously-invisible-ms-scars-in-the-brain Copyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock