救急外来といえば、人気ドラマ『ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室(原題:The Pitt)』が思い出されるが、現実の米国の救急外来では、日々のさまざまな出来事によって医師が疲弊し、その結果、医療の質の低下につながる可能性が、新たな研究で示唆された。医師のストレスの大きな要因の一つが、苛立った患者への対応であることが示されたという。米マサチューセッツ大学アマースト校社会心理学教授のLinda Isbell氏らによるこの研究の詳細は、7月12日付で「BMJ Quality & Safety」に掲載された。Isbell氏は、「医療には本質的に、不確実性と感情的な要素を伴う。特に救急外来(ER)ではその傾向が強い」と指摘した上で、「医療における不確実性や感情といった人間の現実を認識し、医師と患者の双方が、全ての人々の健康とウェルビーイングの実現という共通の目標に向かって取り組めるようにするシステム全体の変革が必要だ」と主張している。研究グループによると、ERのスタッフはこれまで長い間、横柄で要求の多い患者への対応が業務を困難にしていることを訴えてきた。しかし、そのような患者とのやり取りが患者に対するケアにどの程度の悪影響を与えるのかを検証した研究は実施されていなかった。今回の研究では、134人の医師を対象にコンピューター上の模擬診療(ビネット実験)を行い、患者の苛立った態度が、医師の感情や患者評価、臨床判断、診療行動に与える影響を検討した。各医師は、苛立っている/落ち着いている、精神疾患の既往あり/なしが組み合わされた4人の患者を診察し、患者の電子カルテ、診察場面の動画、身体所見を見た上で、患者の評価、臨床上の決定、検査の指示、診断を行った。また、診察ごとに各患者に対する感情的な反応を報告し、全ての患者の評価後に不確実性ストレス尺度(SUS)に回答した。Isbell氏は、「重要なのは、患者が穏やかだったか苛立っていたかにかかわらず、医師に伝えた医学的な情報は全く同じ内容だった点だ。変えたのは感情的な態度だけだった」とニュースリリースの中で説明している。その結果、穏やかな患者に接したときと比べて苛立った患者に接したときには、医師は不安や怒り、疲労感が増加し、共感や幸福感、熱意は低下したことを報告した。また、患者の症状の訴えに対する不信感も強まり、患者について「痛みを大げさに訴えている」「協力的ではない」「診療に積極的に関わろうとしない」「好感を持ちにくい」「治療を遵守しない」「仕事に復帰できない」などと評価する傾向が強いことも明らかになった。さらに、日常的な医療行為に付き物である診断や治療に伴う不確実性にストレスを感じやすい医師ほど、こうした苛立った患者から影響を受けやすいことも明らかになった。Isbell氏は、このような状況は、医療の質や治療成績の低下につながり、その影響は医師と患者の双方に及ぶ可能性があると指摘している。同氏はまた、ストレスを抱えた患者に対して、時には一歩引いて、医療従事者もひとりの人間であることを思い出してほしいと呼びかけている。Isbell氏は「感情は人間に生来備わっているものであり、人間らしさを形作る要素である。しかし長年にわたり、医療現場では、医師は感情を診察室内に持ち込むべきではないと考えられてきた。これは全く現実的ではない」と話している。(HealthDay News 2026年7月14日) https://www.healthday.com/health-news/first-aid-and-emergencies/unruly-patients-are-stressing-er-staff-undermining-care Copyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock