膵臓がんは、特に発症リスクを大幅に高める遺伝子変異を受け継いだ人では、「サイレントキラー」となり得る。しかし、こうした高リスク者における膵管腺がん(PDAC)の予防に新たな希望が見えてきた。米ジョンズ・ホプキンス大学シドニー・キンメル総合がんセンターのElizabeth Jaffee氏らは、PDACやその前がん病変で高頻度に認められるKRAS変異を持つ細胞を免疫系が認識して排除するよう誘導するワクチンを開発し、その小規模試験の結果を、「Cancer Discovery」に7月16日付で報告した。試験では、PDACの遺伝的リスクが高い20人のうち18人でワクチンによる免疫応答が確認され、その免疫応答が長期間持続することも示されたという。膵臓がんは、長期間にわたって症状が現れないまま進行し、治療が難しい段階になってから発見されるケースが少なくない。米国がん協会(ACS)は、米国では2026年に6万7,000人以上が膵臓がんと診断され、約5万3,000人が膵臓がんで死亡すると予測している。PDACは膵臓がんの約90%を占め、PDAC症例の約10%では親から受け継いだ遺伝子変異が発症リスクを著しく高めている。このような人では、将来的にがんへ進展する可能性がある前がん病変が生じやすいという。論文の上席著者であるシドニー・キンメル総合がんセンターのNeeha Zaidi氏によると、現在、こうした高リスク者にとって唯一の選択肢は、「サーベイランスにより経時的に膵臓の変化を監視すること」であるという。異常が見つかった場合には、膵臓の患部を外科的に切除する。しかし、この処置によりPDACを完全に防げるわけではない。同氏は、「手術後の病変再発率は最大80%に達する。また、PDACの前がん病変の多くは顕微鏡でしか確認できない大きさであり、画像検査では検出できない」と指摘している。KRAS変異は、PDACやその前がん病変の約90%に認められることが知られている。研究グループはこれまでに、PDACで高頻度に認められる6種類のKRAS変異を標的とするペプチドワクチン「mKRAS-VAX」を開発していた。このワクチンはこれらのKRAS変異を持つ細胞を免疫系が認識して排除するよう誘導する。今回の試験では、遺伝的にPDACのリスクが高く、画像検査で膵臓に異常所見が認められた高リスク患者20人を対象に、mKRAS-VAXの安全性、免疫原性、およびT細胞の持続性を評価した。患者は、1週目、3週目、5週目、13週目に計4回、ワクチンの皮下注射を受けた。その結果、20人中18人(90%)でKRAS変異に特異的なT細胞応答が誘導された。また、T細胞受容体(TCR)シーケンスという解析法でワクチンによって誘導されたKRAS特異的T細胞クローンを追跡したところ、最長2年間体内に残存していることが確認された。さらに、中央値16.5カ月の追跡期間中にPDACを発症した患者はいなかった。安全性については、グレード1~2の副作用にとどまり、重篤な副作用は確認されなかった。Jaffee氏は、「これはまだ始まりに過ぎない。この結果は、免疫システムが活性化されていることを示唆している。取り組むべき課題はまだたくさん残されているが、これまで誰も考えたことのなかった予防を目的とするアプローチの良い第一歩となった」とニュースリリースで述べている。ただし研究グループは、この試験は安全性とワクチンによる免疫応答を評価することを目的とした小規模試験であり、ワクチンが膵臓がんを予防することを証明したものではないと強調している。それでも、この試験の成功は、ワクチンによるPDAC予防が実現可能であることを示す「概念実証」として意義があり、今後のより大規模な臨床試験を後押しすると期待される。(HealthDay News 2026年7月16日) https://www.healthday.com/health-news/cancer/could-a-vaccine-prevent-pancreatic-cancer-in-those-at-high-risk Copyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock