体外受精(IVF)での胚移植は治療の最終段階であり、成功率を高めるためにさまざまな方法が試みられている。例えば、移植時の子宮の角度を改善する目的で膀胱を充満させる方法、移植前に子宮頸管粘液を除去する方法、カテーテル留置後に胚を装填する方法(アフターローディング法)などである。しかし、加藤レディスクリニックの産婦人科医である秋野亮介氏らが8月6日付で「Cochrane Database of Systematic Reviews」に発表した研究で、これらの3つの手法の有効性を裏付ける確実性の高いエビデンスは得られていないことが示された。秋野氏は、「ある意味では、エビデンスよりも慣習が診療を動かしている例と言える。この領域における現行の診療は、質の高いエビデンスではなく、各施設の手順や医師の好み、長年の慣習を反映していることが少なくない」とニュースリリースで述べている。今回のレビューで秋野氏らは、胚移植を受けた女性2,524人を対象とした11件のランダム化比較試験を検討した。このうち6件(対象者1,341人)の研究では、膀胱を充満させる方法、子宮頸管粘液を除去する方法、アフターローディング法の3つの主要な手法が評価されていた。主な評価項目は、生児出生率と有害事象の総数で、妊娠率、妊娠喪失率、胚移植の難易度についても評価した。その結果、膀胱を充満させた状態で胚移植を実施する方法については、生児出生率と有害事象については報告されていなかった。妊娠率(2件の研究、対象者273人)、妊娠喪失率(1件の研究、対象者131人)、胚移植の難易度(1件の研究、対象者142人)については、膀胱が空の状態で胚移植を行った群との間に統計学的な有意差は認められなかったが、いずれの結果についてもエビデンスの確実性は非常に低かった。子宮頸管粘液を除去してから胚移植を行う方法については、2件の研究で評価されていた。うち1件(対象者97人)では、粘液を除去した群と除去しなかった群との間で、妊娠率にほとんど、あるいは全く差がない可能性が示された。もう1件の研究(介入群220治療サイクル、対照群205治療サイクル)では、生児出生率(介入群52件、対照群42件)、妊娠率(介入群65件、対照群63件)、妊娠喪失率(介入群15件、対照群20件)が報告され、いずれも低確実性のエビデンスであった。有害事象の総数と胚移植の難易度については、いずれの研究でも報告されていなかった。アフターローディング法については、生児出生率と有害事象については報告されていなかった。妊娠率(2件の研究、対象者654人)および妊娠喪失率(1件の研究、対象者352人)については、超音波ガイド下で直接胚移植を行った場合と比べて、ほとんど、あるいは全く差がない可能性が示された(いずれもエビデンスの確実性は低い)。胚移植の難易度についてはエビデンスの確実性が非常に低かった。1件の研究(対象者352人)ではアフターローディング法により胚移植が困難となる可能性が低下することが示された一方、別の研究では、両群とも胚移植は困難ではなかったと報告されていた。筆頭著者である昭和医科大学臨床疫学研究所の山路野百合氏は、「16年間にわたり研究が行われてきたにもかかわらず、IVFの基本的な手技に関する疑問にいまだ答えが出ていない。胚移植はIVFの過程で極めて重要なステップであり、わずかな工夫や手技によって結果が大きく変わる可能性がある。しかし、より厳密で質の高い試験が実施されるまでは、その効果について詳しいことは分からないだろう」とニュースリリースで述べている。 研究グループは、これらの手法が胚移植の成功率を高める可能性があるのかをより正確に把握するためには、さらなる研究が必要だとの見解を示している。(HealthDay News 2026年8月7日) https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD007682.pub3/full Copyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock