脳に電極を植え込んで電気刺激を与える脳深部刺激療法(DBS)が、外傷性脳損傷(TBI)後の構音障害や嚥下障害の改善を促す可能性が、新たな研究で示された。このDBSは、脳深部の領域である運動視床に低周波の電気刺激を与えるもの。今回の小規模研究では、薬物治療抵抗性の左右非対称な本態性振戦の治療目的でDBS用電極の植え込みを受けた8人を対象に低周波のDBSを行ったところ、顔面筋および口腔咽頭筋の運動出力が増強したことが確認された。さらに、TBI後に重度の構音障害と中等度の嚥下障害を来した患者1人でも、発話や嚥下機能の改善が認められた。米ピッツバーグ大学身体医学・リハビリテーション学分野のElvira Pirondini氏らによるこの研究の詳細は、7月18日付で「Nature Communications」に掲載された。Pirondini氏は、「外傷後の構音障害をリハビリテーションによって改善することは、多くの患者にとって最優先事項であり、しばしば移動能力の回復以上に重要とされている。多くの人にとって、発話能力を失うことは仕事や自立した生活、人間関係に影響を及ぼし、その人生を根底から一変させかねない」と指摘している。論文の背景情報によると、米国では500万人を超える人が構音障害や嚥下障害を抱えている。DBSは現在、パーキンソン病による振戦をはじめとする一部の神経疾患の治療に用いられている。しかし、DBSが発話能力の回復に有効かどうかについては、いまだ統一見解は得られていない。今回の研究では、一般的な高周波刺激(約130 Hz)より低い50~80 Hzの電気刺激を用いるDBSの有用性を、2つのサブスタディを通じて検討した。研究グループによると、高周波刺激は発話を抑制し、構音障害を引き起こす可能性があることが示されているという。研究には計9人が参加した。第1のサブスタディの対象は、薬物治療抵抗性の左右非対称な本態性振戦の治療のため、運動視床へのDBS用電極の植え込みを受ける患者8人(男性5人、平均年齢67歳)、第2のサブスタディの対象は、MRIで皮質延髄路に病変が認められ、重度の構音障害と中等度の嚥下障害を有するTBI患者1人だった。その結果、第1のサブスタディでは、低周波DBSにより、発話や嚥下に関わる顔面筋および口腔咽頭筋(咬筋、口輪筋、顎舌骨筋、オトガイ筋、輪状甲状筋)の運動出力が即座に増強することが示された。また、発話機能を評価した3人では、低周波DBSによる発話の悪化は認められなかった。一方、第2のサブスタディのTBI患者では、低周波DBSにより、舌の出し入れや笑う動作などの顔面の随意運動と嚥下効率が向上し、呼吸・発声・構音の制御や発話の明瞭度と質も改善した。論文の共著者であるピッツバーグ大学脳神経外科学教授のJorge Gonzalez-Martinez氏はニュースリリースで、「今回の研究は、刺激パラメータが重要であることを示している。適切な脳回路を低周波刺激の標的とすることで、脳損傷後の患者の発話や嚥下の助けとなる残存神経経路の働きを促進できる可能性がある」と述べている。ただし、安全性や有効性、長期的なアウトカムを検証するためには、脳卒中を含むさまざまなタイプの脳損傷を有する、より多くの患者を対象とした大規模研究が必要であると研究グループは強調している。(HealthDay News 2026年8月27日) https://www.healthday.com/health-news/neurology/implant-improves-speech-after-brain-injury Copyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock