人の記憶力は、これまで考えられていたよりも早い時期から低下し始めるようだ。米ニューヨーク州立大学ビンガムトン校心理学准教授のIan McDonough氏らによる研究で、50歳代には若年成人と比べて記憶成績の低下がすでに認められ、これには記憶に重要な役割を果たす海馬の機能的な変化が影響している可能性のあることが明らかになったという。詳細は、8月10日付で「Cerebral Cortex」に掲載された。McDonough氏はニュースリリースの中で、「記憶の機能には中年期が極めて重要で、無視できない時期であることを示す研究が増えているが、今回の研究もその一つである」と述べている。論文中の研究背景によると、記憶の形成は脳が新しい情報を記録することから始まる。その後、海馬がその記憶を再活性化することで安定化が進み、必要になったときに記憶が想起される。今回の研究では、こうした新しい情報を記録する段階から想起する段階までの連続性に加齢がどのような影響を及ぼすのかを調べた。この研究では、20~74歳の成人61人(若年成人〔20~30歳〕:17人、中年層〔51~60歳〕:21人、高齢層〔61~74歳〕:23人)を対象に、まず5分間の安静時機能的MRI(fMRI)を実施した。次いで、人間の顔+物、または人間の顔+場面(屋内外の空間)を組み合わせた画像を1ペアにつき3秒間ずつ提示する符号化ランを2回に分けて行った。1回のランは、32ペアの画像で構成され、所要時間は8分程度だった。その後、T1強調構造画像、安静時fMRI画像を撮像し、符号化課題で提示した画像の組み合わせについて、fMRIで撮像しながら2回のランに分けて記憶テストを行った。このテストは、顔と組み合わせて示されていた物または場面を4つの選択肢から選ぶものだった。研究グループは、符号化時、符号化後の安静時、記憶検索時における海馬の活動パターンが各段階の間でどの程度類似しているかを表象類似性指標(representational similarity index;RSI)として算出して解析した。その結果、記憶テストの平均正答率は、若年成人で36%、中年層で24%、高齢層で20%であり、若年成人に比べて中年層と高齢層で有意に低かった。一方、中年層と高齢層の間には有意差はなかった。また年齢が高いほどRSIが低いという関連が認められ、加齢に伴い記憶の各段階間で海馬の表象の類似性が低下する可能性が示唆された。McDonough氏は、「20~30歳から50歳代にかけて記憶の正確性は大幅に低下していた。これは、海馬におけるこうしたプロセスの一部の低下は中年期までに始まっており、中年期がまさに一つの転換点であることを示唆している」と説明している。 さらに、符号化時と記憶検索時のRSI(EN-RE RSI)と正答率との関連を検討したところ、若年成人ではEN-RE RSIと全体の正答率の間に最も強い正の関連が見られた。中年層でもこの関連は弱まったものの有意であったが、高齢層では有意ではなかった。また、RSIと誤りの種類(場面または物というカテゴリーは正しいが別の画像を選んだ場合と、カテゴリー自体を間違えた場合)との関連も年齢によって異なり、高齢層ではRSIが高いほど、異なるカテゴリーを選ぶ誤りが多かった。この結果についてMcDonough氏は、「記憶を符号化したときと一致するパターンで海馬が再活性化するほど、こうした記憶違いが生じる可能性が高まることが示された。つまり、そのような再活性化パターンは記憶力の向上と関連するのではなく、むしろ記憶違いと関連していたのだ」と言う。ただし、なぜ加齢に伴い記憶を形成し、想起する通常の仕組みがうまく機能しなくなるのかについては明らかになっていないと同氏は述べている。研究グループは今後の研究で記憶のプロセスをさらに詳しく調べるとともに、学習後に脳を刺激することが記憶にどのような影響を及ぼすのか検討する必要があるとしている。(HealthDay News 2026年9月3日) https://www.healthday.com/health-news/neurology/memory-loss-starts-younger-than-previously-thought-brain-scans-reveal Copyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock