有害な妊娠転帰(APO)は妊婦の約20%に発生し、その発生率は年々増加傾向にある。今回、妊娠中の心血管健康(CVH)はAPOに影響を及ぼす、とする研究結果が報告された。研究は東北大学大学院医学系研究科の大瀬戸恒志氏、石黒真美氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に5月29日掲載された。 APOは、妊娠中や分娩中、または産褥期に起こる好ましくない事象や合併症のことを指す。APOの病態は心血管疾患(CVD)との類似性が指摘されており、将来のCVD発症を予測することから「妊娠はストレステスト」とも表現される。そのため、CVDに対する予防策がAPOの発症予防にも有効かどうかの注目が高まっている。2022年、米国心臓協会はCVHを評価するための指標「Life’s Essential 8(LE8)」を提案した。LE8はCVDの予防のため、危険因子を管理し、人々の健康向上に寄与すると期待される。しかし、LE8を使用した包括的なCVH評価が出生前のケアで有益かどうかは依然として不明である。また、CVHの低さは抑うつ症状や社会的孤立と関連することが報告されている。しかし、これまでの研究では、精神的健康や社会的決定要因がCVHとAPOとの関係にどのような影響を与えるかは十分に検討されていない。このような背景から、著者らは日本人妊婦を対象に、LE8を用いて評価したCVHがAPOに及ぼす影響を評価する前向きコホート研究を実施した。さらに、心理的ストレス、社会的孤立、および収入における影響が加わることで生じる変化についても検討した。 本研究では、東北メディカル・メガバンク計画三世代コホート調査に参加した妊婦1万4,930人のデータを解析した。妊娠中のCVHの状態はLE8の8つの項目(食習慣・身体活動・喫煙・睡眠・Body mass index・血清脂質・血糖・血圧)を用いて評価した。APOは、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、早産、在胎不当過小児を含む複合アウトカムと定義した。 研究参加者のCVHを評価した結果、「高」が2,891人(19.4%)、「中等度」が1万1,498人(77.0%)、「低」が541人(3.6%)だった。そのうちAPOを発症した妊婦は、CVHが「高」、「中等度」、「低」の妊婦でそれぞれ、380人(13.1%)、1,772人(15.4%)、162人(29.9%)含まれた。「高」CVHを基準としたロバスト誤差分散を用いたポアソン回帰分析では、「中等度」CVH(相対リスク〔RR〕1.15、95%信頼区間〔CI〕1.03~1.28)および「低」CVH(RR 2.14、95%CI1.78~2.58)がAPOと関連していた(P<0.001〔傾向検定〕)。 心理的ストレス、社会的孤立、収入のサブグループ解析では、社会的孤立を報告した参加者においては、CVHレベルの低さがAPOとより強く関連することが示されたが、相互作用は統計的に有意ではなかった(P=0.247)。「低」CVHの妊婦のうち、社会的孤立を報告していた妊婦では、報告しなかった妊婦よりも出産時のAPOの有病率が高かった(36.4% vs. 27.4%)。この傾向は「高」CVHの妊婦では認められなかった(13.6% vs. 13.1%)。 本研究について著者らは、「今回の研究では、CVHレベルの低さとAPOの有病率の間に正の関連が認められた。また、社会的孤立を感じている妊婦では、そうでない妊婦と比較して、CVHレベルの低さとAPOとの関連が顕著であることが示された。これらの結果は、LE8がAPOのリスク評価に有用である可能性を示唆するとともに、社会的孤立を感じている低CVHの妊婦に対する支援策の必要性を示している」と述べている。 本研究は先行研究の約5倍の症例数が含まれているが、限界点として、CVH計測のタイミングが参加者間で異なっていたこと、妊娠経過が妊娠中の行動に影響を与えていた可能性があることなどを挙げている。(HealthDay News 2025年7月14日) Abstract/Full Texthttps://www.nature.com/articles/s41598-025-03652-x Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock