硬膜外麻酔時のカテーテル挿入には、高い技量と経験が要求される。しかし、今回、熟練の麻酔科によるカテーテル挿入でも、その先端が適切な位置に届いていないとする研究結果が報告された。カテーテル先端の位置異常が見られた症例では、担当麻酔科の経験年数が有意に長かったという。研究は富山大学医学部麻酔科学講座の松尾光浩氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に6月26日掲載された。 硬膜外麻酔は高度な技術を要し、経験豊富な麻酔科医でも約3割の症例で鎮痛が不十分となる。成功率向上の鍵となるのがカテーテル先端の正確な挿入位置だが、その実際の到達部位を客観的に評価した報告は乏しい。本研究では、術後CT画像を用いてカテーテル先端の位置不良の頻度を明らかにするとともに、術者や患者の特性との関連を後ろ向きに検討した。 解析対象は、2005年1月1日~2022年12月31日までの間に、富山大学附属病院にて硬膜外麻酔を伴う全身麻酔が施行された1万1,559人とした。これらの患者のうち、手術当日を含む術後5日以内に胸部CTまたは腹部CTが撮影された患者を特定した。術後CT画像より、カテーテル先端が黄色靭帯を貫通していなかった場合を「位置異常」と定義した。群間比較にはχ²検定とMann-Whitney U検定を用い、カテーテル位置異常を従属変数、麻酔科医の卒後年数を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。 最終的な解析対象は、術後の胸部または腹部CT画像で硬膜外カテーテルの挿入が確認された189人であった。患者の年齢中央値は71歳(範囲:15~89歳)、女性は全体の41%を占めた。すべての患者において、硬膜外カテーテルは左側臥位で傍正中アプローチにより挿入され、主な挿入部位は胸椎中部(48%)および胸椎下部(49%)であった。挿入を担当した医師の卒後経験年数の中央値は5.7年(2.0~35.4年)であった。 硬膜外カテーテルの位置異常は24人で認められた(12.7%、95%信頼区間〔CI〕8.3~18.3)。これらの症例では、カテーテルの先端は椎骨(椎弓:9、肋横突起:2、棘突起:1)、浅層軟部組織(脊柱起立筋内:5、皮下:4)、深層軟部組織(椎間孔内:2、背側胸膜下腔:1)に確認された。 正常なカテーテル位置群と位置異常群での特性の違いを調べたところ、患者の年齢やBMI、挿入部位による相違は認められなかったが、位置異常群の麻酔科医は卒後の経験年数が有意に長かった(中央値5.6年 vs. 10.1年、P=0.010)。ロジスティック回帰分析を用いて、カテーテルの位置異常と経験年数の相関を解析した結果、カテーテルの位置異常の発生率は麻酔科医の経験年数の増加に伴い有意に増加することが示された(卒後1年あたりのオッズ比1.08、95%CI 1.02~1.15)。 本研究について著者らは、「術後CTで確認された硬膜外カテーテル先端の位置不良は全体の約13%に認められた。挿入を担当した麻酔科医の卒後年数が長いほど位置異常のリスクが高くなる傾向があり、経験豊富な医師であっても適切な挿入位置の確認が重要である」と述べている。 なお、経験年数の増加に伴い、カテーテルの位置異常の発生率が上昇する理由としては、1)経験に伴う不注意や過信による一次的な位置異常、2)経験を積んだ麻酔科医が皮膚へのカテーテル固定に十分な注意を払わなくなり、結果として患者の体動により生じる二次的な位置異常、の2つの可能性が指摘されている。(HealthDay News 2025年8月4日) Abstract/Full Texthttps://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0316304 Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock