多くの人が悩まされる睡眠障害。しかし、放置すると思わぬ疾患を引き起こす可能性がある。短い睡眠時間や不眠症、睡眠時無呼吸症候群(SAS)といった睡眠障害が、視神経の変性や緑内障の発症リスクと関連することが、大規模研究で明らかになった。睡眠の質を整えることが、緑内障予防につながる可能性があるという。研究は京都大学大学院医学研究科眼科学教室の赤田真啓氏、畑匡侑氏らによるもので、詳細は8月15日に「American Journal of Ophthalmology」に掲載された。 緑内障は、世界中の高齢者における重度の視覚障害や失明の主な原因の一つである。緑内障の主な危険因子は加齢であるものの、その発症機序は多因子的であり、眼科的要因と全身的要因の双方が関与している。全身的要因の中では、近年の研究により、異常な睡眠パターンが緑内障の発症に関与する可能性があることが指摘されている。著者らは以前、滋賀県長浜市で実施された地域ベースの前向きコホート研究(長浜コホート研究)より、SASが緑内障進行の指標である網膜神経線維層(RNFL)の菲薄化と関連する可能性を示した。しかし、全国規模の大規模調査は不足しており、睡眠時間がRNFL厚や緑内障リスクに与える影響も十分に検討されていない。このような背景から、著者らは睡眠不足、不眠症、SASが成人のRNFLの菲薄化および緑内障の発症と関連しているかどうかを検証するために、地域ベースの横断研究と全国規模の後ろ向きコホート研究を実施した。 地域ベースの横断研究には、長浜コホート研究から40~80歳の成人5,958人が参加した。睡眠は手首装着型アクティグラフィーで評価され、RNFL厚は光干渉断層計(OCT)で測定された。睡眠パラメータとRNFL厚との関連を検討するため、多変量線形モデルを用いた横断解析が行われた。一方、全国規模の後ろ向きコホート研究には、厚生労働省が運用するNDBデータベースが利用された。解析対象は、40歳以上の不眠症患者98万5,136人、SAS患者7万2,075人、そしてこれらの疾患をもたない対照群であった。最大7.5年間追跡し、Cox比例ハザードモデルを用いて緑内障発症の調整ハザード比(aHR)が推定された。 地域ベースの横断研究では、参加者の睡眠時間と睡眠効率をそれぞれ4群、5群に分類し一元配置分散分析を実施した。その結果、睡眠時間(P=0.021)および睡眠効率(P<0.001)のいずれにおいてもRNFL厚に有意差がみられた。RNFL厚は6~7時間睡眠群で最も高く、睡眠時間が短くなるほど減少する傾向を示した。さらに年齢、性別、眼圧、および全身因子で調整後も、睡眠時間が6時間未満であることはRNFLの菲薄化と独立して関連していた(β=–0.76、95%信頼区間〔CI〕 –1.33~–0.19、P=0.008)。 全国コホートでは、追跡期間中に、不眠症患者98万5,136人のうち1万8,954人、SAS患者7万2,075人のうち1,276人が新たに緑内障と診断された。年齢、性別、既存の併存疾患で調整したCox比例ハザード回帰分析の結果、不眠症(aHR 1.30、95%CI 1.28~1.32、P<0.001)およびSAS(aHR 1.43、95%CI 1.35~1.51、P<0.001)は、いずれも緑内障リスクの上昇と独立して関連していた。 本研究について著者らは、「今回の結果は、臨床的に診断された不眠症や睡眠時無呼吸症候群と、緑内障の発症との間に有意な関連があることを裏付けている。睡眠評価と管理を眼科診療に取り入れることは、緑内障の予防に役立つ可能性がある」と述べている。 なお、不眠症とSASが緑内障リスクを高める機序について、著者らは、不眠症は網膜の老廃物排出システム(脳のグリンパティック系に類似する仕組み)の不調を介してリスクを高め、SASではこの不調に加えて低酸素、酸化ストレスや炎症などが関与し、さらにリスクを高めているのではないかと考察している。(HealthDay News 2025年9月22日) Abstract/Full Texthttps://www.ajo.com/article/S0002-9394(25)00427-1/fulltext Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock