新しい脂肪肝の概念「MASLD;代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」が、慢性腎臓病(CKD)の独立したリスク因子であることが国内研究で示された。単一施設の約1.6万人の健康診断データを解析したもので、MASLDの早期発見や管理の重要性が改めて示された。研究は京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学の大野友倫子氏、濵口真英氏、福井道明氏、朝日大学病院の大洞昭博氏、小島孝雄氏らによるもので、詳細は10月17日付で「PLOS One」に掲載された。 日本では食生活の欧米化に伴い肥満が増加し、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)の有病率も上昇している。NAFLDは主に内臓脂肪やインスリン抵抗性と関連し、糖尿病や心血管疾患などの代謝異常を伴うことが多い。2020年には、こうした代謝背景を重視する形でNAFLDはMAFLDとして再定義され、日本の大規模コホート研究ではCKDの独立したリスク因子であることが報告された。さらに2023年、国際的専門家パネル(Delphiコンセンサス)により、より包括的でスティグマの少ない概念としてMASLDへと名称が変更され、少なくとも1つの心血管代謝リスク(BMI、血糖値、HDL-C値など)を伴う脂肪肝と定義された。本研究は、この新しい定義によるMASLDがCKD発症の独立したリスク因子となるかを明らかにすることを目的に、人間ドック受診者を対象とした縦断的コホート解析として実施された。 本研究では、岐阜県の朝日大学病院で実施されているNAFLDの縦断的解析(NAGALA Study)に基づき、1994~2023年の間に人間ドックを受けた1万5,873人を解析対象とした。ベースライン時点で肝疾患を有する者、またはCKD(推算糸球体濾過量〔eGFR〕<60 mL/分/1.73 m2、もしくはタンパク尿〔+1~+3〕が少なくとも3か月持続)と診断された者は除外した。参加者はアルコール摂取量、心血管代謝リスク、脂肪肝の有無によりグループ1~8までのカテゴリーに分類された。主要評価項目は、5年間の追跡期間中におけるCKDの新規発症率とし、ロジスティック回帰分析によりMASLDとCKD発症との関連を評価した。 解析対象の9,318人(58.7%)が男性で、平均年齢は43.7歳だった。追跡期間中のCKD新規発症率は、アルコール摂取が閾値以下で心血管代謝リスクおよび脂肪肝を認めないグループ1で最も低く(4.7%)、MASLDと診断されたグループ8で最も高かった(9.5%)。 次に、ベースライン時の年齢、性別、eGFR、喫煙習慣、運動習慣で調整した多変量解析を実施した。その結果、グループ1と比較して、MASLDと診断されたグループ8でのみCKD新規発症のオッズ比(OR)が有意に上昇した(OR 1.37、95%信頼区間〔CI〕1.12~1.67、P=0.002)。さらに、年齢(OR 1.04、95%CI 1.03~1.05、P<0.001)およびベースライン時のeGFR(OR 0.88、95%CI 0.87~0.89、P<0.001)も、CKDの有意な予測因子として同定された。 著者らは、「MASLDは、これまでのNAFLDを包含する新しい疾患概念として、CKD発症リスクを独立して高める可能性がある。特に日本に多い『非肥満型MASLD』では、腎機能低下リスクに注意が必要だ。今後は、筋肉量の影響を受けない腎機能指標を用いたリスク評価や、個別化された介入の検討が求められる」と述べている。 なお、本研究の限界点としては、参加者が岐阜県の人間ドック受診者に限られ、選択バイアスの可能性があること、食事内容や食後血糖などのデータが欠如している点などを挙げている。(HealthDay News 2025年11月25日) Abstract/Full Texthttps://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0334720 Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock