高齢化が進む中でも、認知症は必ずしも増え続けるとは限らない。今回、久山町研究の長期疫学データから、認知症の有病率と発症率が2012年以降低下していることが示された。健診と保健指導が継続的に行われてきた地域特性を踏まえると、本研究は生活習慣病管理と認知症予防の関係を考える上で、重要な示唆を与える。研究は、九州大学大学院医学研究院精神病態医学分野の小原知之氏、同衛生・公衆衛生学分野の二宮利治氏らによるもので、詳細は、12月29日付で「Alzheimer's Research & Therapy」に掲載された。 高齢化が進む中、認知症の増加とその社会的負担は大きな課題とされてきた。一方で、認知症の有病率の推移については、増加を示す研究と横ばい・低下を示す研究が混在しており、見解は一致していない。こうした違いを理解するには、認知症の有病率だけでなく、発症率や発症後の生存率を併せて検討する必要がある。特にアジア地域では、同一地域を長期間追跡した研究は限られている。久山町研究では、1985~2012年にかけて認知症有病率が増加し、その背景として認知症発症率の上昇と発症後生存率の改善が関与していることが報告されている。本研究はその知見を踏まえ、37年にわたる調査データを用いて、日本の地域住民における認知症の有病率、発症率、発症後生存率の2012年以降の推移を検討した。 久山町研究は、1961年から福岡県久山町の住民を対象に継続されている、日本を代表する地域住民コホート研究である。国勢調査によると、久山町の年齢構成や職業構成、栄養摂取状況は、過去60年間にわたり日本全体とほぼ同じ水準にあるとされている。本研究では同地域において、65歳以上の住民を対象に、1985年、1992年、1998年、2005年、2012年、2017年、2022年の7時点で認知症に関する悉皆調査を実施した(全ての受診率:92%以上)。さらに、認知症のない65歳以上の住民を対象に、1988年(803人)、2002年(1,231人)、2012年(1,519人)の3つのコホートを設定し、それぞれ10年間追跡した。認知症有病率の推移はロジスティック回帰モデルを用いて検討した。認知症の発症率と発症後生存率については、Cox比例ハザードモデルを用いて性別と年齢を調整してコホート間で比較した。 認知症の有病率は、1985年から1998年まで横ばいで推移したが、その後は2012年にかけて有意に上昇した(1985年6.7%、1992年5.7%、1998年7.1%、2005年12.5%、2012年17.9%、傾向P値<0.01)が、その後2017年15.8%、2022年12.1%と有意に減少した(傾向P値<0.01)。これらの関係は年齢で調整しても同様の傾向が認められた。認知症の有病率は、発症率と発症後の予後によって規定される。この有病率が時代とともに変化した要因を明らかにするために、1988年、2002年、および2012年のコホートを比較した。その結果、年齢・性別調整後の認知症発症率は、1988年コホート(1988~1998年)から2002年コホート(2002~2012年)にかけて有意に上昇した(調整ハザード比〔aHR〕1.68、95%信頼区間〔CI〕1.38~2.06)。一方、同発症率は2002年コホートから2012年コホート(2012~2022年)にかけて有意に低下した(aHR 0.60、95%CI 0.51~0.70)。つぎに、認知症発症後の予後の時代的変化を検討したところ、認知症発症後5年生存率は、1988年コホートから2002年コホートにかけて有意に改善していた(47.3%から65.2%、P<0.01)。一方、同生存率は2002年コホートから2012年コホートにかけては明らかな変化を認めなかった(65.2%から58.9%、P=0.42)。 こうした結果から、2000年代になって認知症有病率が急増した背景には、認知症の発症率が時代とともに上昇したことに加えて、認知症発症後の予後が改善したことがあるとみられる。一方、2012年以降、認知症の有病率が低下した背景には、近年のコホートで認知症発症率が低下したことが影響している可能性がある。 著者らは、「本研究において認知症の有病率と発症率が2012年以降減少傾向にある背景には、高血圧や糖尿病など危険因子の管理状況の改善と喫煙率の低下や運動習慣の増加など健康的な生活習慣の普及が関与している可能性が考えられる。高齢化が進む社会において、認知症の発症リスクを低減してその社会的負担の増大を抑制するためには、生活習慣病の予防とその適切な管理に加え、健康的な生活習慣を心がけることが重要」と述べている。 なお、著者らは、本研究の限界点として、単一地域での調査であるため一般化が難しい点を挙げている。また、近年の診断環境の変化や頭部外傷や難聴など未評価の危険因子があること、COVID-19流行が結果に影響した可能性を述べている。(HealthDay News 2026年2月9日) Abstract/Full Texthttps://link.springer.com/article/10.1186/s13195-025-01909-1 Copyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock