配偶者との死別は人生で最もつらい出来事の一つだが、その影響は男女で異なるのだろうか。今回、日本の高齢者を対象とした大規模研究により、配偶者死別後の影響には明確な男女差があり、男性では死亡や認知症リスクの上昇など不良転帰が目立つ一方、女性では時間の経過とともに幸福感や生活満足度が高まる傾向が示された。研究は、千葉大学予防医学センター社会予防医学部門の河口謙二郎氏らによるもので、詳細は2月12日付の「Journal of Affective Disorders」に掲載された。配偶者の死別は高齢者にとって強いストレスを伴い、うつ症状や不安、死亡リスクの上昇など多様な健康影響が報告されている。特に高齢化が進む日本では死別を経験する人が多い。一方、従来研究はうつ症状や死亡など限られたアウトカムに偏っており、健康の多面的側面を十分に評価していないほか、影響の持続期間や男女差についても知見は限定的である。本研究は、配偶者死別と健康・ウェルビーイングの関連を多面的かつ縦断的に検討し、男女差および時間経過による変化を明らかにすることを目的とした。本研究は、日本老年学的評価研究(JAGES)の2013年、2016年、2019年の3時点データを用いた縦断研究で、要介護認定を受けていない65歳以上の自立した高齢者約2万6,000人(調査ベース)と約3万4,000人(介護保険データベース)を対象に解析した。2013年時点で既婚であった参加者について、配偶者の死別の有無と時期に基づき、死別なし、2015~2016年に死別、2013~2015年に死別の3群に分類した。解析では、身体・認知機能、メンタルヘルス、主観的幸福感、社会的ウェルビーイングなど7領域にわたる計37項目を対象に、配偶者死別との関連を検討した。死亡や認知症、要介護状態については公的介護保険(LTCI)データと連結して評価し、最大約6年間の影響を追跡した。統計解析にはロジスティック回帰分析、修正ポアソン回帰分析、重回帰分析を使い分け、多重比較に対してボンフェローニ補正を行った。解析の結果、対象約2万6,000人のうち、解析開始時(2016年)に配偶者を亡くしていたのは1,076人だった。配偶者の死別による影響には男女差が認められ、男性では死亡リスク(3~4年後に約1.9倍)や認知症リスク(4~6年後に約2.3倍)、要介護状態に至るリスクの上昇と関連していた。一方、女性でも認知症や要介護状態との関連は一部でみられたものの、男性に比べて弱く、死亡リスクの上昇は認められなかった。また、死別後1年以内に、男性では抑うつ症状や絶望感の増加、幸福感の低下がみられたが、これらの影響は時間の経過とともに弱まる傾向があった。これに対し女性では、抑うつ症状の増加は認められず、その後、幸福感や生活満足度、生きがいの上昇がみられた。社会的ウェルビーイングでは、男女ともに社会参加の増加がみられ、友人との交流や趣味・運動などへの参加が活発化した。一方で、社会的支援の低下は男性のみに認められた。さらに、生活習慣の変化として、男性では飲酒量の増加、女性では健診受診の増加がみられた一方、座位時間の増加も確認された。本研究により、配偶者の死別が高齢者の健康や生活に及ぼす影響には、男女差と時間経過による違いがあることが示された。男性では身体・認知機能の悪化や社会的支援の低下が目立つ一方、女性ではその後の幸福感向上など適応的変化がみられた。著者らは、こうした結果は死別後の影響が一様ではないことを示すものだとし、「高齢化が進む社会においては、男女の特性に応じた支援体制の構築が重要」と指摘している。なお、本研究にはいくつかの限界があり、対象が高齢日本人に限られることや、サンプルの偏り、測定方法の制約などから、結果を一般化する際には注意が必要である。(HealthDay News 2026年3月30日)Abstract/Full Texthttps://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0165032726002429?via%3DihubCopyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock