胸の中央の空間である縦隔に生じる腫瘍(縦隔腫瘍)の手術は、従来は胸を大きく開く開胸手術が主流だった。近年は胸腔鏡やロボットを用いた低侵襲手術の導入が進んでいるが、日本全体での実態は十分に明らかでなかった。今回、全国の医療保険データを解析した研究で、縦隔手術の多くが胸腔鏡で行われ、ロボット手術も増加していることが示された。研究は、稲毛病院整形外科の城戸優充氏、京都府立医科大学呼吸器外科学の岡田悟氏らによるもので、詳細は2月20日付で「International Journal of Clinical Oncology」に掲載された。胸腺上皮性腫瘍は発生頻度が低いものの、前縦隔に生じる腫瘍の中で最も多い。標準治療は外科切除であり、近年は胸腔鏡やロボット支援手術など低侵襲手術の導入が進んでいる。また、胸腺摘出術が行われる代表的疾患である重症筋無力症(MG)でも同様の手術手技の変化が報告されている。しかし、日本では縦隔手術の全国的な動向は十分に明らかでない。そこで本研究は、全国の医療保険データベースを用いて過去10年間の縦隔腫瘍手術の推移を解析した。本研究では、日本の保険診療におけるレセプトデータの95%以上を網羅する厚生労働省の匿名医療保険等関連情報データベース(National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups:NDB)の公開集計データを用い、2014~2023年に行われた縦隔手術を解析した。手術は疾患区分(良性腫瘍、悪性腫瘍、MG)と手術アプローチ(開胸、胸腔鏡、ロボット支援手術)で分類し、10万人年当たりの手術率を算出した。10年間の経年推移については、手術件数を線形回帰分析、手術率をポアソン回帰分析で評価した。手術率は男性・女性・男女全体に加えて、10歳ごとの各年代についての解析も実施した。年齢調整は2015年標準人口を用いて行った。2023年に日本で行われた縦隔手術は全6,214件で、内訳は良性腫瘍54.4%、悪性腫瘍41.6%、MG 4.0%だった。手術アプローチでは、胸腔鏡手術が全体の76.4%を占め、ロボット支援手術は全体の29.4%だった。これは胸腔鏡手術の約4割がロボット支援下で行われていた計算になる。一方で、開胸手術は23.6%にとどまった。手術患者の45.1%は65歳以上だった。過去10年間で、全縦隔腫瘍手術の件数は有意に増加した(P=0.0001)。この増加は、悪性腫瘍手術、胸腔鏡手術、ロボット支援手術件数の増加によるもので、いずれも有意な上昇を示した(いずれもP<0.0001)。一方、MGに対する拡大胸腺摘出術と開胸手術件数は有意に減少していた(それぞれP=0.0019、P<0.0001)。良性腫瘍手術件数には有意な増減を認めなかった。手術率では、特に悪性縦隔腫瘍に対する手術率が男女ともに増加しており、相対リスクは男性1.051、女性1.065、全体で1.058だった(いずれもP<0.0001)。年代別の解析では、40歳以上の男女で有意に増加していた(P<0.0024)。著者らは、「日本では過去10年間で悪性縦隔腫瘍に対する手術が増加しており、手術アプローチは開胸から胸腔鏡やロボットなどの低侵襲手術へと大きく移行している」とまとめている。こうした結果は、今後の医療資源配分や外科医育成などを検討する上で参考となる。なお、本研究は保険請求データに基づく解析であり、腫瘍の組織型や病期などの臨床情報は把握できず、非手術症例も含まれない。また、MGに対する拡大胸腺摘出術の件数が過小評価されている可能性もある。(HealthDay News 2026年4月6日) Abstract/Full Texthttps://link.springer.com/article/10.1007/s10147-026-02986-4 Copyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock