性的・ジェンダー少数者(SGM)では、非SGMに比べて高血圧や精神疾患などの健康問題のリスクが高い可能性がある。今回、日本のミレニアル世代を対象とした研究で、SGMの高血圧リスクは非SGMの約3倍と推定され、こうした健康格差の背景に暴力被害が関与している可能性が示された。研究は筑波大学人文社会系の松島みどり氏らによるもので、詳細は「Public Health」に3月27日掲載された。SGMは非SGMに比べて身体的・精神的健康状態が不良であることが報告されており、その背景には差別や心理的・身体的暴力など、少数者であることによって受ける「マイノリティストレス」があると考えられている。しかし、暴力被害がSGMと非SGMの健康格差をどの程度説明するのかは十分に検討されておらず、研究の多くは欧米に集中している。そこで研究グループは、LGBTQをめぐる議論が広がった時代に成長した日本のミレニアル世代(1980年代前半から1990年代半ばに生まれた人たち)に着目し、SGMと非SGMの健康格差とその要因を分析した。本研究は、日本の大規模インターネット調査「JACSIS study」第3波(2022年9月12日~10月19日)のデータを用いた横断研究である。楽天インサイトのパネルを対象としたオンライン調査から、ミレニアル世代の男性5,868人(SGM 986人、非SGM 4,882人)、女性6,253人(SGM 907人、非SGM 5,346人)を解析対象とした。出生時の性別と性自認、性的指向に関する質問からSGMを定義した。健康問題については、若年層で比較的多い高血圧、精神疾患、口腔疾患、慢性疼痛、アレルギーの5つを対象とし、現在診断されているかを自己申告で評価した。ロジスティック回帰でSGMと非SGMの健康格差を推定し、Fairlie分解法を用いて社会経済状況、医療アクセス、健康行動、心理的・身体的暴力被害が格差にどの程度寄与するかを解析した。対象者のうちSGMは男性16.8%、女性14.6%だった。SGMは非SGMに比べ、検討したすべての健康問題と関連していた。高血圧のオッズ比は男性で3.02、女性で3.83、精神疾患は男性で2.87、女性で1.87だった。各疾患の有病割合の差(SGMと非SGMの実際の有病率の差)は、男性で11~19%、女性で4~13%で、いずれもSGMで高く、特に精神疾患で大きかった。実際の有病率をみると、男性では高血圧がSGM25.1%、非SGM7.6%、精神疾患がSGM25.7%、非SGM7.1%など、いずれの疾患もSGMで高値であった。女性でも同様にSGMで有病割合は高いものの、その差は男性より小さかった。また、SGMは心理的・身体的暴力を経験した割合も高く、男性では心理的暴力がSGM42.3%、非SGM20.8%、身体的暴力がSGM39.8%、非SGM17.4%だった。女性でも同様にSGMで暴力経験割合は高かった。これらの健康格差の要因を分解すると、心理的・身体的暴力被害の寄与が最も大きく、観察された格差の約3分の1~4分の3を説明していた。一方、社会経済状況、医療アクセス、健康行動の寄与は小さかった。著者らは、社会経済状況や医療アクセスだけでは健康格差を十分に説明できず、より広い社会的要因が関与している可能性があると指摘する。これらの結果から、暴力被害が健康格差の主要な説明要因であり、心理的・身体的暴力の双方が関連していたことが示された。日本はLGBTの法的保護や包摂の面で、OECD諸国の中でも低い評価(2019年時点)とされ、過去20年間で大きな進展はみられていないと指摘されている。2023年に成立した「LGBT理解増進法」は理解の促進を目的としたもので、差別を直接禁止する罰則規定はなく、同性婚も法的に認められていない。著者らは、こうした制度的背景や異性愛を前提とした社会構造がスティグマにつながっている可能性があり、健康格差の是正には政策的対応が重要だと指摘している。なお、本研究の限界点として、オンライン調査による自己申告データを用いているため疾患の有病率が過小評価されている可能性がある点や、臨床データを含めていない点が挙げられる。(HealthDay News 2026年5月11日) Abstract/Full Texthttps://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0033350626001241?via%3Dihub Copyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock