女性アスリートでは、利用可能エネルギー不足(LEA)に伴い月経周期異常が生じ、健康や競技力に影響することが知られている。今回、日本の女性オリンピック選手を対象とした12年間の調査で、月経不順が増加傾向にある一方、婦人科受診率も大幅に上昇していたことが報告された。婦人科受診率は向上したものの、なお残る健康管理上の課題が浮き彫りとなった。研究はハイパフォーマンススポーツセンター・国立スポーツ科学センター産婦人科医の能瀬さやか氏らによるもので、詳細は4月12日付の「Women’s Health」に掲載された。女性アスリートでは月経関連症状や月経周期異常が高頻度にみられ、競技活動やパフォーマンス、回復過程にも影響することが報告されている。また、LEAによって健康への影響がみられた状態であるスポーツにおける相対的エネルギー不足(REDs)は月経周期異常と関連し、長期的には骨・心血管系など多方面に影響し得る。しかし、既存研究の多くは横断的かつ欧米中心であり、長期的な変化や地域差は十分に検討されていない。そこで本研究では、日本の女性オリンピック選手を対象に、12年間・7大会にわたるデータを用い、月経関連症状と月経周期異常の有病率および婦人科受診率の経時的変化を検討した。日本の女性オリンピック選手を対象に、2008年北京大会から2020年東京大会(2021年開催)までの夏季・冬季計7大会に参加した選手のデータを解析した。対象は女性954人で、このうちホルモン製剤を継続使用していた選手を除いた786人を主な解析対象とした。婦人科に関する自己記入式アンケートを用い、月経周期の状態、月経関連症状、薬剤使用状況などを評価した。解析では大会ごとの経時的変化をロジスティック回帰分析で検討し、さらに同一選手が複数大会に出場することによる影響を考慮するため、一般化推定方程式(GEE)を用いた補正解析も行った。以上の方法により、本研究は反復横断研究デザインで長期的な傾向を評価した。月経周期異常は全体の約22.5%に認められ、その内訳は月経不順13.9%、続発性無月経5.3%、初経遅延1.5%、原発性無月経1.8%などであった。12年間の経時的変化をみると、月経不順の有病率は有意に増加していた(オッズ比〔OR〕 1.24、95%信頼区間 1.13~1.37、P<0.001)。この傾向は同一選手の反復参加を考慮した解析(GEE)でも確認された(OR 1.25、P<0.001)。一方、続発性無月経では増加傾向が示唆されたものの統計学的有意差には至らず、原発性無月経や初経遅延には明確な変化は認められなかった。月経随伴症状では、月経困難症が24.3%、月経前症候群(PMS)が66.9%、過多月経が9.2%に認められた。PMSは最も高頻度にみられた症状であったが、いずれも経時的な有意な変化は認められなかった。一方で月経困難症は主解析では増加傾向にとどまったものの、GEE解析では有意な増加が確認された(OR 1.11、P=0.005)。さらにPMSの個別症状では、怒りっぽさ、むくみ、体重増加などに明確な変化はみられなかった一方、乳房の張りは有意に減少していた。また、月経周期異常の割合は競技特性によって差がみられ、特に新体操や器械体操、フィギュアスケート、陸上長距離などの審美系や持久系競技で無月経の割合が高い傾向にあった。婦人科受診歴については、全対象で解析した結果、受診率は12.4%から65.3%へと約5倍に増加していた(OR 1.42、P<0.001)。著者らは、婦人科受診率が上昇した一方で月経不順や月経困難症の増加傾向が持続していることから、医療アクセス改善のみでは十分な健康管理につながらない可能性があると指摘している。月経周期異常は骨や心血管系を含む長期的健康リスクとも関連することから、早期対応と選手・指導者双方の理解と連携が重要と述べている。本研究の限界として、症状評価が自記式質問票に基づくため想起バイアスの可能性があることに加え、月経周期異常の原因を特定できないこと、対象が日本人エリート女性選手に限られる点を挙げている。(HealthDay News 2026年5月25日) Abstract/Full Texthttps://journals.sagepub.com/doi/10.1177/17455057261440253 Copyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock