職業は、がんリスクに影響するのだろうか。今回、日本の大規模研究で、男性では運輸関連や一部のブルーカラーの職業でがんリスクが高い傾向にあり、医師や教師などの専門職で低いといった傾向が示された。女性でも胃がんや乳がんなどで職業ごとの差がみられたという。ただし、この違いは単純な発症リスクだけではなく、健康診断の受診機会による「見つかりやすさ」や生活習慣の違いも影響している可能性がある。研究は東海大学医学部衛生学公衆衛生学の深井航太氏らによるもので、詳細は4月14日付で「Journal of Occupational and Environmental Medicine」に掲載された。職業はがんリスクに影響する重要な要因とされるが、これまでの研究は特定の有害物質や高リスク産業に偏り、幅広い職業分類で部位別リスクを包括的に検討した研究は少ない。また、男女差や社会経済的要因、検診による「見つかりやすさ」の違いも十分に考慮されていない。日本は長期雇用により同一職業での曝露が蓄積しやすく、職場で行われるがん検診などにより職業ごとにがんの発見機会が異なる特徴を持つ。本研究は、日本の大規模データを用い、職業別・男女別・部位別のがんリスクを評価し、生活習慣や社会経済的要因、検出バイアスも考慮しながら、職業によるがん格差の実態解明を目的とした。本研究では、2005〜2023年に労災病院グループで実施された入院患者の病職歴調査(Inpatient Clinico-Occupational Database of Rosai Hospital Group:ICOD-R)のデータを用い、多施設による大規模症例対照研究が行われた。労災病院グループは全国34病院からなるネットワークで、診断は医師により国際基準に基づいて記録されている。対象は、がん患者約14万7,000人と、年齢などを一致させた対照群約27万8,000人で構成された。職業は最も長く従事した職種を基準に評価し、喫煙や飲酒などの生活習慣を調整した上で、条件付きロジスティック回帰分析により性別ごとに解析が行われた。解析の結果、職業によってがんリスクに差が認められ、その傾向は男性でより顕著であった。男性では、肉体労働や運輸関連職でリスクの上昇がみられた一方、医師や教師などの専門職では低い傾向が示された。女性においても職業ごとの差は認められたが、全がんでの差は比較的小さく、がんの種類ごとに異なるパターンがみられた。なお、職業分類ごとの部位別がんリスクの詳細は、論文本文で男女別にヒートマップで示されている。部位別にみると、男性では専門職で肺がん、胃がん、大腸がんなどのリスクが一貫して低い一方、販売や接客、飲食関連、運輸、建設などの職種で肺がんや大腸がん、肝がんのリスク上昇がみられた。女性では全体として職業差は限定的であったが、電気機械の組立作業に従事する人では、肺がんや胆道がん、胃がんのリスク上昇がみられるなど、特定のがん種で職業との関連が認められた。ただし、こうした職業差の背景には、「見つかりやすさ」の違いが影響している可能性が指摘された。前立腺がんでは事務系職でリスクが高くみられたが、これは健康診断でPSA検査を受ける機会の違いにより、無症状の段階で発見されやすいことが影響している可能性がある。著者らは、職業によるがんリスクの差について、実際の発症リスクだけでなく、生活習慣や健康診断の受診機会の違いも反映している可能性があると考察した。今回の知見について、特定の職業が一律に高リスクであることを示すものではなく、職業環境や健康管理機会の違いががんリスクの見え方に影響している可能性を示唆するものと位置づけている。 なお、本研究の限界点として著者らは、病院ベースの症例対照研究であることによる選択バイアスの可能性に加え、転職歴が加味されていないことや、身体活動など一部情報が含まれていない点を挙げている。(HealthDay News 2026年5月25日) Abstract/Full Texthttps://journals.lww.com/joem/abstract/9900/association_between_occupation_and_cancer_risk__a.1163.aspx Copyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock