マラソン中の心停止はまれではあるものの、生命を脅かす重大なアクシデントだ。今回、日本全国のフルマラソン約453万人の参加データを解析した研究で、スタート時の気温が低いほど心停止リスクが高い可能性が示された。一方、大気汚染物質との有意な関連は認められなかった。研究は、霞ヶ浦医療センター循環器内科の加藤穣氏らによるもので、詳細は6月30日付の「JACC:Advances」に掲載された。マラソン中の心停止は、冠動脈疾患などランナー側の心血管疾患が主な原因と考えられている。一方、これまでの研究はランナー個人の特徴や基礎疾患に焦点を当てたものが中心で、レース当日の気象条件や大気汚染などの環境要因が心停止リスクに与える影響については十分に明らかになっていなかった。こうした背景から著者らは、フルマラソン大会の参加データとレース当日の気象・大気汚染データを用いて、これらの環境要因と心停止リスクとの関連を検討した。著者らは、2011年4月~2020年3月に開催された日本陸上競技連盟(JAAF)公認のフルマラソン大会を対象に、延べ452万8,134人の参加データを解析した。心停止は、レース開始からゴール後1時間以内に発生し、胸骨圧迫や自動体外式除細動器(AED)による処置を要した症例と定義した。各大会について、スタート時の気温や湿度、風速などの気象データに加え、PM2.5などの大気汚染データを用いて、参加者構成や大会の特徴を考慮しながら心停止リスクとの関連を評価した。心停止症例は全国レジストリに加え、新聞やインターネット報道も確認し、大会事務局への照会を通じて未報告症例の把握にも努めた。対象となった571大会では、スタート時の平均気温は11.5℃で、多くの大会は秋から冬にかけて開催されていた。心停止は62大会で75例確認され、発生率は10万人当たり1.66例だった。心停止発生者の中央値年齢は52歳で、93.3%が男性だった。解析の結果、スタート時の気温が1℃上昇するごとに心停止リスクは約6%低下し、スタート時の気温が低いほど心停止リスクが高まる傾向が示された(発生率比〔IRR〕0.94、95%信頼区間0.90~0.99)。一方、PM2.5などの大気汚染物質と心停止リスクとの間に有意な関連は認められなかった。また、湿球黒球温度(WBGT)を用いた解析や、対象条件を変えた追加解析でも同様の傾向が確認され、低気温と心停止リスクとの関連はおおむね一貫していた。著者らは、寒冷環境では末梢血管の収縮や血圧・心拍数の上昇などが起こり、心臓への負担が増加する可能性を指摘している。こうした変化が重なることで、心筋虚血や不整脈を起こしやすい状態につながる可能性があるという。また、開催時期やスタート時刻の変更は現実的ではないものの、寒冷時のリスクを認識することが、大会主催者や医療スタッフによる救護体制の強化や緊急時の対応準備につながる可能性があると述べている。なお、本研究では発症者の基礎疾患や心停止の原因は把握できておらず、高温環境で開催された大会も少なかったことから、著者らはさらなる検討が必要だとしている。(HealthDay News 2026年8月10日) Abstract/Full Texthttps://www.jacc.org/doi/10.1016/j.jacadv.2026.102965 Copyright © 2026 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock