感情制御に関与する前頭前野にテストステロンが与える影響は、思春期の半ばから後期にかけて減弱し、若年成人期には活性化する役割へと移行するという研究結果を、ラドバウド大学(オランダ)のAnna Tyborowska氏らが「Developmental Science」に6月21日発表した。.Tyborowska氏らは、これまでの研究で、げっ歯類では、思春期にはテストステロンが神経発達ホルモンから社会的・性的なものを活性化するホルモンへと役割が移行することに着目。ヒトでも同様にテストステロンの機能が変化するのかを調べるために、前向き縦断研究を実施した。研究では、71人(うち男性40人)を対象に、思春期半ば(14歳)から後期(17歳)、および若年成人期(20歳)に諸検査を行い、社会的情動行動の神経制御におけるテストステロンの役割について調査した。対象者のテストステロンは各年齢で唾液を用いて測定し、またfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を応用した接近回避課題(社会的情動刺激に対する自動的または制御された行動を含み、喜び・怒りの感情と接近・回避の行動との一致・不一致を評価)を実施した。.その結果、前部前頭前野の活動性については、14歳と17歳との比較でも、17歳と20歳との比較でも、年齢・一致性・テストステロンの間に有意な交互作用が認められた。つまり、14歳ではテストステロンが高いほど左前部前頭前野の活動が高かったが、17歳ではこの関係は減弱していた。一方で、20歳では逆に、テストステロンが高いほど情動行動を制御する際の右前部前頭前野の活動が低下していた。17歳と20歳との比較で、両側扁桃体の活動についても同様に有意な交互作用が認められ、17歳ではテストステロンが高いほど扁桃体の活動が抑えられたが、20歳ではテストステロンが高いほど扁桃体の活動が高くなった。.このように、情動制御に関与する前部前頭前野に対するテストステロンの影響は、思春期半ばから後期にかけて減弱したが、若年成人期までには、扁桃体の反応性の増加を伴って、情動の神経制御を妨げるように活性化の方向へと向かっていた。.著者らは、「テストステロンは一般に、攻撃性や支配的な行動と関連付けられがちだが、実際には、発達時期によって異なる役割を持つ多面的なものである」と述べ、「脳の定型的な成長過程のみならず、感情障害など非定型的な経過も理解する上で、加えてストレスなどの外的要因が脳の機能や発達に与える影響を考える上で、今回の結果は重要だ」と付言している。(HealthDay News 2023年6月23日).https://consumer.healthday.com/physician-s-briefing-testosterone-2661647752.html.Copyright © 2023 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
感情制御に関与する前頭前野にテストステロンが与える影響は、思春期の半ばから後期にかけて減弱し、若年成人期には活性化する役割へと移行するという研究結果を、ラドバウド大学(オランダ)のAnna Tyborowska氏らが「Developmental Science」に6月21日発表した。.Tyborowska氏らは、これまでの研究で、げっ歯類では、思春期にはテストステロンが神経発達ホルモンから社会的・性的なものを活性化するホルモンへと役割が移行することに着目。ヒトでも同様にテストステロンの機能が変化するのかを調べるために、前向き縦断研究を実施した。研究では、71人(うち男性40人)を対象に、思春期半ば(14歳)から後期(17歳)、および若年成人期(20歳)に諸検査を行い、社会的情動行動の神経制御におけるテストステロンの役割について調査した。対象者のテストステロンは各年齢で唾液を用いて測定し、またfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を応用した接近回避課題(社会的情動刺激に対する自動的または制御された行動を含み、喜び・怒りの感情と接近・回避の行動との一致・不一致を評価)を実施した。.その結果、前部前頭前野の活動性については、14歳と17歳との比較でも、17歳と20歳との比較でも、年齢・一致性・テストステロンの間に有意な交互作用が認められた。つまり、14歳ではテストステロンが高いほど左前部前頭前野の活動が高かったが、17歳ではこの関係は減弱していた。一方で、20歳では逆に、テストステロンが高いほど情動行動を制御する際の右前部前頭前野の活動が低下していた。17歳と20歳との比較で、両側扁桃体の活動についても同様に有意な交互作用が認められ、17歳ではテストステロンが高いほど扁桃体の活動が抑えられたが、20歳ではテストステロンが高いほど扁桃体の活動が高くなった。.このように、情動制御に関与する前部前頭前野に対するテストステロンの影響は、思春期半ばから後期にかけて減弱したが、若年成人期までには、扁桃体の反応性の増加を伴って、情動の神経制御を妨げるように活性化の方向へと向かっていた。.著者らは、「テストステロンは一般に、攻撃性や支配的な行動と関連付けられがちだが、実際には、発達時期によって異なる役割を持つ多面的なものである」と述べ、「脳の定型的な成長過程のみならず、感情障害など非定型的な経過も理解する上で、加えてストレスなどの外的要因が脳の機能や発達に与える影響を考える上で、今回の結果は重要だ」と付言している。(HealthDay News 2023年6月23日).https://consumer.healthday.com/physician-s-briefing-testosterone-2661647752.html.Copyright © 2023 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock