妊娠糖尿病(GDM)のリスクと胎盤機能との関連性を示すデータが報告された。妊娠初期に、胎盤におけるインスリン様成長因子結合タンパク質-1(IGFBP-1)の遺伝子発現が少ないとインスリン感受性が低く、妊娠の経過とともにGDM発症が増加するという。米ハーバード大学医学大学院のMarie-France Hivert氏らの研究によるもので、詳細は「Nature Medicine」に4月16日掲載された。同氏は、「妊娠中には胎盤機能がインスリンの生理作用に大きく関わり、おそらくGDMの発症に関与するホルモンも胎盤が産生していると考えられる」と述べている。
米国では妊婦7人に1人がGDMに罹患し、GDMの罹患は種々の周産期合併症リスク上昇と関連する。先行研究により、インスリン抵抗性の亢進がGDMの一因であることが明らかになっているが、妊娠に伴いインスリン抵抗性が亢進するメカニズムは明確にされていない。
これを背景としてHivert氏らは、非糖尿病妊婦の出産後に採取された胎盤を用いたトランスクリプトーム解析を行った。対象妊婦の主な特徴は、年齢28.7±4.4歳、初産婦35.5%、妊娠初期のBMI中央値23.8(四分位範囲21.4~27.9)、インスリン感受性(Matsuda Index)6.74(同4.70~9.36)。
解析の結果、インスリン感受性と関連のある14の遺伝子を特定。最も関連の強い遺伝子は、IGFBP-1遺伝子だった(β=0.43、P=2.5E-5)。また、血中IGFBP-1レベルとインスリン感受性との相関も認められ、年齢、BMI、および評価時点の在胎週数を交絡因子として調整後の相関係数(r)が0.35であって、他のコホートでもr=0.34~0.48の範囲にあった(全てP<0.001)。なお、妊娠の経過に伴い、血中IGFBP-1レベルは、非妊婦に比べて最大5倍程度に上昇していた。
GDMを発症したのは35人(8.1%)であり、妊娠初期の血中IGFBP-1レベルが高い妊婦ほどGDM発症が少なかった。具体的には、前記と同じ交絡因子を調整後の解析で、妊娠第1三半期および第2三半期のIGFBP-1レベルが1標準偏差高いことが、GDM発症オッズ比(OR)の有意な低下と関連していた〔第1三半期はOR0.441(95%信頼区間0.299~0.642)、第2三半期はOR0.478(同0.349~0.647)〕。
血中IGFBP-1レベルは、分娩後に低下した。このことと、胎盤サンプルでの検討で見いだされたIGFBP-1遺伝子の高発現とを合わせて考慮すると、IGFBP-1は胎盤または脱落膜由来であることが示唆された。以上より著者らは、「IGFBP-1が妊娠中のインスリンの生理作用と血糖制御に関与していると考えられ、GDMは妊娠初期に胎盤由来IGFBP-1が少ないことが一因の可能性がある」と総括している。
Hivert氏は大学発のリリースの中で、「妊娠初期にIGFBP-1を測定することで、GDMの発症リスクのある人を早期に特定し、予防的介入に結び付けられるのではないか」と期待を表している。また、「今後はIGFBP-1が妊娠中の血糖制御にどのように関わっているのか、より詳細なメカニズムの解明を目指していきたい」と展望を語っている。(HealthDay News 2024年4月17日)
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