地域の平均所得や貧困レベルなどに関する社会指標が、その地域に暮らす住民に占める失明・視覚障害者数の多寡と有意に関連しているとする論文が発表された。米ミシガン大学アナーバー校のPatrice M. Hicks氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Ophthalmology」に5月9日掲載された。
所得格差や貧困、人種/民族的マイノリティーなどの社会人口学的因子が、さまざまな疾患のリスクの増大と関連のあることが知られている。ただし、視覚障害の有病率と、そのような因子との関連性についてはまだ十分検討されていない。Hicks氏らは、所得格差や貧困と失明・視覚障害(vision difficulty and blindness;VDB)との関連の実態を把握するため、以下の横断研究を行った。
この研究では、2010年の米国国勢調査(悉皆調査)と2012~2016年のコミュニティー調査(サンプル調査)のデータ等を利用して、同国内7万3,198地域の所得格差指標(タイル指数、ジニ係数)、および慢性的貧困状態を評価した。VDBについては、コミュニティー調査での「盲目、または眼鏡などを用いても物を見るのに深刻な困難を伴うか?」という質問に「はい」と回答した場合と定義し、一般住民におけるその割合を解析に用いた。
各地域の人口は平均4,332±2,124人で、人種/民族的マイノリティーと自認している人は38.2±30.70%、VDB該当者率は2.50±1.90%〔中央値2.1%(四分位範囲1.30~3.30)〕であり、タイル指数は0.22±0.13、ジニ係数は0.42±0.06で、慢性的貧困がまん延している地区は6,148地域(8.40%)だった。なお、タイル指数とジニ係数はいずれも、全く平等な社会では値が0となり、格差が大きいほど値が1に近づく。また慢性的貧困のまん延は、当該地域の人口の20%以上が30年以上にわたり貧困状態にあることで定義された。
各地域の人口規模、年齢中央値、女性の割合、人種/民族的マイノリティーの割合、および所属する州を調整したロジスティック回帰分析の結果、タイル指数の上昇とVDBのオッズ比(OR)増大の有意な関連が認められ〔タイル指数が0.1高いごとにOR1.14(95%信頼区間1.14~1.14)、P<0.001〕、ジニ係数との関連も有意だった〔ジニ係数が0.1高いごとにOR1.15(同1.15~1.15)、P<0.001〕。また、慢性的貧困がまん延している地域の住民は、そうでない地域に比べてVDBのオッズ比が有意に高かった〔OR1.36(同1.35~1.36)、P<0.001〕。
著者らは、「横断研究の結果、地域単位の所得格差や慢性的な貧困が、VDBを抱えて暮らす住民の多さと関連していた。この知見は、医療資源の体系的な投資と的を絞った介入のための政策立案に影響を与える可能性がある」と述べている。なお、米国においては、眼科クリニックの多くが、教育水準が高く住民の保険加入率も高い地域に存在しているとのことだ。(HealthDay News 2024年5月14日)
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