遅発性ジスキネジア(TD)を有する統合失調症患者では、免疫の老化に関わるT細胞サブセットの割合の変化が脳の構造の異常に関与しているとする研究結果が、「Schizophrenia Research」7月号に発表された。
Peking University HuiLongGuan Clinical Medical School(中国)のNa Li氏らは、TDを有する統合失調症患者(TD)50人とTDを有さない統合失調症患者(NTD)58人、および健常対照者41人(HC)を対象に、T細胞の表現型と脳構造の異常との関連を検討した。モノクローナル抗体を用いて、全血中に含まれているナイーブ(表面マーカーCD45RA+)、メモリー(同CD45RO+)、およびアポトーシス(同CD95+)を発現しているCD4+およびCD8+T細胞を特定し、CD8+CD45RA+CD95+T細胞とCD8+CD45RO+CD95+T細胞内のサイトカイン(IFN-γ、IL-1β、TNF-α、IL-6、)のレベルを測定した。また、MRIを用いて、白質と皮質下の体積のFA(fractional anisotropy、拡散の異方性度の指標)を評価した。精神病理学的評価には、陽性・陰性症状評価尺度(Positive and Negative Syndrome Scale;PANSS)、TDの重症度の評価には異常不随意運動評価尺度(Abnormal Involuntary Movement Scale;AIMS)を用いた。共分散分析(ANCOVA)で群間比較を行い、免疫の変数、脳構造、PANSSスコア、およびAIMSスコアの間の関係は、偏相関係数の算出や重回帰分析により評価した。
免疫関係の評価を全て行い、かつ画像データを入手し得たTD群44人、NTD群43人、HC群33人を対象にT細胞の割合を比較したところ、TD群ではNTD群とHC群に比べてCD8+CD45RO+CD95+T細胞の割合が有意に高かった(対NTD群:Cohen’s d=0.61、P=0.008、対HC群:Cohen’s d=0.45、P=0.036)。その他のT細胞サブセットに関して有意な群間差は認められなかった。
次に、TD群でのT細胞サブセットの割合などと脳構造との関連を調べたところ、CD8+CD45RO+CD95+T細胞の割合と左右の脈絡叢の体積(左:相関係数〔r〕=0.384、P=0.013、右:r=0.326、P=0.038)、およびCD8+CD45RO+CD95+T細胞内のIFN-γレベルと右脈絡叢の体積(r=0.432、P=0.015)には有意な相関関係が認められ(NTD群とHC群には有意な関係なし)、また口腔顔面のAIMSスコア(r=0.381、P=0.017)との間にも有意な関係が認められた(肢・体幹のスコアとは有意な関係なし)。さらに、右脈絡叢の体積とRegional Vulnerability Index(r=0.346、P=0.025)、および右脳弓/分界条のFAと左淡蒼球の体積(r=0.381、P=0.013)にも有意な相関関係が認められた(NTD群とHC群には有意な関係なし)。口腔顔面のAIMSスコアと右脳弓/分界条のFA(r=0.408、P=0.011)、および口腔顔面のAIMSスコアと左淡蒼球の体積(r=0.318、P=0.033)にも有意な相関関係が認められた(肢・体幹のスコアとは有意な関係なし)。肢・体幹のAIMSスコアと有意な正の相関が見られたのはPANSSのサブスケール(陰性症状)スコア(r=0.331、P=0.010)との間で、有意な負の相関が見られたのは、左側帯状回(r=−0.370、P=0.020)、右下前頭後頭束(r=−0.364、P=0.021)、および左上縦束(r=−0.376、P=0.017)のFAとの間であった(これら4者では口腔顔面スコアとは有意な関係なし)。
著者らは、「今回の結果は、免疫の老化に関わるT細胞サブセットの変化と脳の構造の変化との関連性が、TDという症状が現れる病的プロセスの基盤に存在するというエビデンスの端緒となるかも知れない」と述べている。(HealthDay News 2024年7月25日)
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