精神的ストレスに対する心血管系の反応性から得られるリスクスコアが、安定冠動脈疾患(CAD)の患者において、従来の心血管危険因子よりも、心血管系の有害転帰の予測に優れているとする研究結果が、「Journal of the American Heart Association」に1月23日掲載された。CADの既往がある人は、合併症や死亡のリスクが高くなる。このリスク増加に関わる因子の一つとして「精神的ストレス」が挙げられる。米エモリー大学医学部のKasra Moazzami氏らは、これまでに、急性の心理的ストレスに対して、心拍数と収縮期血圧の積(RPP)が低いこと、血管内皮機能を示す上腕動脈血管拡張反応(FMD)が低いこと、安静時と比較したストレス時の脈拍振幅の比(PAT比<1)として計算される末梢血管収縮が大きいことの3つが、安定CAD集団における心血管系転帰を悪くすることを報告している。しかしながら、これらの指標がどのように関連し心血管転帰の増悪に寄与するのかはわかっていない。そのような背景から、同氏らは、これら3つの指標がそれぞれ独立して有害な心血管系転帰と関連するとともに、3指標からなる複合的な心血管反応性リスク(CRR)スコアにより、CAD集団における予後予測が可能であるという仮説を立て、2件のコホート研究を対象とした後ろ向き解析を実施した。解析対象には、精神的ストレスと重篤な心血管転帰との関連を検証した2件の前向きコホート研究(MIPS試験、MIMS2試験)から、安定したCADを有する患者629名を含めた。患者への精神的ストレスは3分間のスピーチ課題を、白衣を着た4人の聴衆の前で行うことで誘発し、その前後で3つの指標を計測した。各指標の数値は四分位範囲ごとに分類され、それぞれ0~3までのポイントが割り当てられた。各指標のポイントを合計することで、0~9までのCRRスコアが算出された。重篤な転帰は、心血管死、非致死性の心筋梗塞、心不全による入院の複合アウトカムとした。イベント発生の予測モデルの評価にはC統計量を採用した。3つの指標と重篤な心血管転帰との関連を調べるために、Coxの比例ハザード回帰分析を行ったところ、RPPが1SD低下あたりのイベント発生に関する未調整ハザード比はMIPS、MIMS2コホートでそれぞれ1.61(95%CI 1.23~2.08)、1.31(1.14~1.53)だった。RPPより小さかったが、FMD、sPAT比の1SD低下あたりのイベント発生についても1以上のハザード比が示された。人口統計学的要因、臨床的要因、精神的要因および薬剤使用例について調整した場合と、さらに3つの指標すべてを追加で調整した場合でも同様の傾向が示されたことから、各指標それぞれが独立して重篤な心血管転帰と関連していることが示唆された。次に人口統計学的要因、従来のリスク要因、精神的要因を含む予測モデルに、CRRスコアを追加した場合の増分値を検証した。その結果、CRRスコアを追加したモデルではC統計量が10%増加した(C統計量増分0.10〔95%CI 0.05~0.21〕、P<0.001)。本研究について著者らは、「安定したCAD患者では、精神的ストレスに対する心血管系の反応から得られたリスクスコアが、従来のリスク指標を超えてより正確に将来の転帰について予測できることが示唆された。これらの指標の変化が長期転帰にどのように関連するか探ることも重要である」と述べている。(HealthDay News 2025年2月3日)https://www.healthday.com/healthpro-news/cardiovascular-diseases/maladaptive-cardiovascular-reactivity-to-mental-stress-linked-to-adverse-outcomesCopyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
精神的ストレスに対する心血管系の反応性から得られるリスクスコアが、安定冠動脈疾患(CAD)の患者において、従来の心血管危険因子よりも、心血管系の有害転帰の予測に優れているとする研究結果が、「Journal of the American Heart Association」に1月23日掲載された。CADの既往がある人は、合併症や死亡のリスクが高くなる。このリスク増加に関わる因子の一つとして「精神的ストレス」が挙げられる。米エモリー大学医学部のKasra Moazzami氏らは、これまでに、急性の心理的ストレスに対して、心拍数と収縮期血圧の積(RPP)が低いこと、血管内皮機能を示す上腕動脈血管拡張反応(FMD)が低いこと、安静時と比較したストレス時の脈拍振幅の比(PAT比<1)として計算される末梢血管収縮が大きいことの3つが、安定CAD集団における心血管系転帰を悪くすることを報告している。しかしながら、これらの指標がどのように関連し心血管転帰の増悪に寄与するのかはわかっていない。そのような背景から、同氏らは、これら3つの指標がそれぞれ独立して有害な心血管系転帰と関連するとともに、3指標からなる複合的な心血管反応性リスク(CRR)スコアにより、CAD集団における予後予測が可能であるという仮説を立て、2件のコホート研究を対象とした後ろ向き解析を実施した。解析対象には、精神的ストレスと重篤な心血管転帰との関連を検証した2件の前向きコホート研究(MIPS試験、MIMS2試験)から、安定したCADを有する患者629名を含めた。患者への精神的ストレスは3分間のスピーチ課題を、白衣を着た4人の聴衆の前で行うことで誘発し、その前後で3つの指標を計測した。各指標の数値は四分位範囲ごとに分類され、それぞれ0~3までのポイントが割り当てられた。各指標のポイントを合計することで、0~9までのCRRスコアが算出された。重篤な転帰は、心血管死、非致死性の心筋梗塞、心不全による入院の複合アウトカムとした。イベント発生の予測モデルの評価にはC統計量を採用した。3つの指標と重篤な心血管転帰との関連を調べるために、Coxの比例ハザード回帰分析を行ったところ、RPPが1SD低下あたりのイベント発生に関する未調整ハザード比はMIPS、MIMS2コホートでそれぞれ1.61(95%CI 1.23~2.08)、1.31(1.14~1.53)だった。RPPより小さかったが、FMD、sPAT比の1SD低下あたりのイベント発生についても1以上のハザード比が示された。人口統計学的要因、臨床的要因、精神的要因および薬剤使用例について調整した場合と、さらに3つの指標すべてを追加で調整した場合でも同様の傾向が示されたことから、各指標それぞれが独立して重篤な心血管転帰と関連していることが示唆された。次に人口統計学的要因、従来のリスク要因、精神的要因を含む予測モデルに、CRRスコアを追加した場合の増分値を検証した。その結果、CRRスコアを追加したモデルではC統計量が10%増加した(C統計量増分0.10〔95%CI 0.05~0.21〕、P<0.001)。本研究について著者らは、「安定したCAD患者では、精神的ストレスに対する心血管系の反応から得られたリスクスコアが、従来のリスク指標を超えてより正確に将来の転帰について予測できることが示唆された。これらの指標の変化が長期転帰にどのように関連するか探ることも重要である」と述べている。(HealthDay News 2025年2月3日)https://www.healthday.com/healthpro-news/cardiovascular-diseases/maladaptive-cardiovascular-reactivity-to-mental-stress-linked-to-adverse-outcomesCopyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock