糖尿病に伴う網膜疾患の有病率・罹患率が、近年上昇傾向にあることが報告された。その一方、視力を脅かすような状態にある患者は減少しているという。米ペンシルベニア大学シャイエ眼科研究所のBrian L. VanderBeek氏らによる研究の結果であり、詳細は「Ophthalmology」7月号に掲載された。 この研究は、米国の民間医療保険およびメディケアアドバンテージ(通常のメディケアよりも適用範囲の広い保険)に加入している糖尿病患者の医療費請求データを用いた、遡及的コホート研究として行われた。観察期間は2000年4月~2022年6月で、主要評価項目は糖尿病に伴う網膜疾患(diabetic retinal disease;DRD)、視力を脅かす糖尿病網膜症(vision threatening diabetic retinopathy;VTDR)、および、糖尿病黄斑浮腫(DME)、増殖糖尿病網膜症(PDR)の有病率・罹患率の推移だった。なお、ベースライン時点でDRDを有する患者は除外されている。また、観察期間の最初の2年以内に記録されていたDRDは、有病率の算出には用いたが、罹患率の算出の際は除外された。 解析対象とした615万5,025人の糖尿病患者のうち、観察期間中に104万1,613人がDRDと診断され、期間有病率は16.9%だった。このうち、VTDRは41万7,155人、DMEは28万6,215人、PDRは22万5,137人であり、期間有病率はそれぞれ6.8%、4.7%、3.7%だった。 DRDの有病率の推移を見ると、2001年から2007年にかけては13.6%から10.9%へと低下していたが、その後2021年にかけて上昇し20.8%に達していた(交絡因子調整後の傾向性〔adjusted test for trend;aTT〕P<0.001)。DRDの罹患率は、2013年が1,000人年当たり16.9であったものが、2021年には同32.2と最高値を記録していた(P<0.001〔aTT〕)。 VTDRとDMEの有病率も同様の傾向を示し、2007年(VTDRは5.2%、DMEは3.2%)から2016年(同順に7.5%、5.4%)まで上昇し、その後2021年(6.9%、4.9%)にかけて低下していた(P<0.001〔aTT〕)。VTDRとDMEの罹患率は2009年にピークに達し(VTDRは12.4、DMEは8.6)、2022年(同順に6.1、5.0)にかけて低下していた(P<0.001〔aTT〕)。 PDRの有病率は、20年間を通じて3.2~4.0%の範囲で変化し、罹患率は経時的に低下して2022年には2.6となっていた(P<0.001〔aTT〕)。 著者らは、「DRD患者数の増加は懸念材料ではあるが、VTDRやその構成疾患の罹患率は、20年の間に低下してきている」と総括。論文の考察では、これらの変化に、抗VEGF薬による治療の普及やOCT検査の増加、蛍光眼底検査の減少などが関与している可能性が述べられている。 なお、著者の1人がEyePoint Pharmaceuticals社との利益相反(COI)に関する情報を開示している。(HealthDay News 2025年7月8日) https://www.healthday.com/healthpro-news/eye-care/prevalence-incidence-of-diabetic-retinal-disease-increased-in-recent-years Abstract/Full Texthttps://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(25)00076-4/fulltext Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock