小児喘息の発症リスクを予測するツールはいくつかあるが、いずれも予測精度は高いとは言えず、医療現場における診断上の有用性は不明である。そのようなツールの一つである小児喘息リスクスコア(Pediatric Asthma Risk Score;PARS)を、電子健康記録(electronic health records;EHR)データを使用して新しいモデルへと改良したところ、診断の予測精度が向上し、幼児期においても喘息リスクをより正確に予測できるようになったことが、「eClinicalMedicine」に5月20日掲載された論文で明らかにされた。 米インディアナ大学医学部のArthur Hamie Owora氏らは、まず、2010年から2017年の間に出生した児6万9,109人(このうち7.65%に当たる5,290人は4歳から11歳の間に喘息と診断)のデータを使用して、従来用いられていた6つの予測因子(黒人、喘鳴、風邪を伴わない喘鳴、多重抗原感作/アレルギー、親の喘息歴、アトピー性皮膚炎)を用いるPARSを、EHRデータを使って検証した(外部検証)。 PARSをEHRを使用して検証した結果、以前になされた589人を対象としたPARSの結果の報告に比べ、感度は高かったものの(0.74対0.68)、特異度は低く(0.68対0.77)、またROC曲線下面積(AUC)も0.76対0.80と低かった。 そこで、予測性能を高めるため、ロジスティック回帰およびCox比例ハザードモデルを用いて、新たに、性別、人種、民族、細気管支炎の既往歴、肺炎の既往歴、幼児期の喘息の5つの予測因子を加え、11因子から成るもモデル「受動的デジタルマーカー(Passive Digital Marker;PDM)」を作成した。このPDMとEHRによるPARSの検証結果のいずれも、予測値と実測値の一致度(較正)は良好であった。しかし、PDMの感度は0.71、特異度は0.74で、AUCは0.79となったことから、EHRによるPARSの検証結果より予測性能は高いことが確認された。 さらに、PDMリスクスコアで小児を高・中・低の3群に分類すると、高リスク群(80〜115点)の児は、36.8%が喘息と診断され、低リスク群(40点未満)の児に比べ、喘息と診断されるリスクが約18倍高かった(ハザード比18.4、95%信頼区間17.0〜19.9)。一方、EHRで検証したPARSでも高・中・低の3群に分類したが、4歳の時点で高リスクと判定された児で喘息と診断された者は25.5%とPDMより少なく、低リスクの児に比べて喘息と診断されるリスクは10.6倍にとどまった(同10.6、9.81〜11.3)。このことから、4歳時にPDMを用いることで、より早期に喘息を発見できる可能性が示唆された。 Owora氏は、「実臨床においてPDMを使用することにより、喘息リスクが高い児を早期に発見・介入することで、喘息のコントロールが改善され、将来の入院リスクが減ることが期待される」と述べている。(HealthDay News 2025年6月17日) https://www.healthday.com/healthpro-news/pulmonology/passive-digital-marker-can-identify-childhood-asthma-risk Abstract/Full Texthttps://www.thelancet.com/journals/eclinm/article/PIIS2589-5370(25)00186-5/fulltext Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock