幼児へのセボフルランの神経毒性が懸念されるなか、麻酔中の曝露を減らしてもその後の神経発達転帰に差はないことが示された。デクスメデトミジンとレミフェンタニルを併用した無作為化試験の結果、幼児期の神経保護効果は示されなかったという。詳細は「ANESTHESIOLOGY」10月号に掲載された。 2000年代初頭より、幼児期の麻酔薬曝露による神経毒性の可能性が懸念されており、動物実験では神経細胞障害や学習障害が報告されてきた。ヒトでの大規模研究では短時間麻酔による明確な認知障害は示されていないものの、観察研究では言語や行動発達への影響を指摘する報告もある。近年、揮発性麻酔薬セボフルランの曝露を減らす目的で、デクスメデトミジンとレミフェンタニルを併用する手法(バランス麻酔)が注目されている。こうした背景のもと、ソウル大学病院(韓国)のSang-Hwan Ji氏らは、セボフルラン単独麻酔と比較して、バランス麻酔によるセボフルラン曝露低減が幼児の神経発達転帰に及ぼす影響を検討する前向き二重盲検ランダム化比較試験を実施した。 本研究の解析対象は、ソウル大学病院で非段階的・非反復的手術を受ける2歳未満の幼児とした。参加者は、セボフルランにデクスメデトミジンとレミフェンタニルを併用する群(DEX-R群)またはセボフルラン単独群(対照群)に割り付けられた。麻酔は、対照群およびDEX-R群の両群でセボフルランにより維持された。セボフルラン濃度は、両群でBIS値を40〜60に維持するよう調整された。群間差の解析では、データ分布に応じて独立したサンプルのt検定、Mann–Whitney U検定を適宜使い分けた。 主要評価項目は5歳時点での全検査IQであり、長期追跡終了後に報告予定である。本稿では、事前に規定した副次評価項目である28〜30か月時点での神経発達評価(Korean Leiter International Performance ScaleおよびChild Behavior Checklist)を報告する。 本研究には400例が登録され、345例(対照群169例、DEX-R群176例)が評価を完了した。麻酔時間の平均は、対照群とDEX-R群で有意差を認めなかった(77.1分 vs. 72.8分、平均差〔95%CI〕;4.4〔−3.8~12.6〕、P=0.293)。呼気終末セボフルラン濃度の平均は、DEX-R群で対照群より有意に低かった(1.8 vol% vs. 2.6 vol%、同−0.9〔−1.0~−0.7〕、P<0.001)。DEX-R群の全検査IQ平均値は102.5±11.5、対照群は103.6±11.5であり、群間差は有意ではなかった(同−1.1〔−3.9~1.7〕、P=0.442)。Child Behavior Checklistの総得点にも群間差は認められなかった。 著者らは、「デクスメデトミジンとレミフェンタニルの併用はセボフルラン使用量を有効に低減したものの、単回麻酔を受けた幼児の短期的な神経発達転帰に有意な差は認められなかった。これらの結果は、短時間の麻酔曝露が臨床的に意味のある神経発達障害を引き起こす可能性は低いという従来の知見を支持するものである」と述べた。(HealthDay News 2025年9月11日) https://www.healthday.com/healthpro-news/child-health/no-adverse-neurodevelopmental-effects-seen-from-inhaled-anesthesia-in-children-under-2 Abstract/Full Texthttps://journals.lww.com/anesthesiology/fulltext/2025/10000/effects_of_dexmedetomidine_remifentanil_on.16.aspx Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock